孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ナイジェリア  深刻な被害をもたらす原油産出による環境破壊

2011-10-27 22:20:28 | アフリカ

(1977に閉鎖された油井から長年原油がもれ続けていました。ロイヤル・ダッチ・シェル社は04年に20,000バレル以上の原油が流出したことを公表。流出した原油の回収・清掃作業にあたる下請け企業の現地労働者 “flickr”より By dawblog  http://www.flickr.com/photos/44157898@N05/4711530274/ )

子供の頃から「川は黒いもの」】
西アフリカの地域大国、ナイジェリアの話題と言えば、南北の宗教対立(北部のイスラム教徒と南部のキリスト教徒)による住民間の衝突・虐殺、南西部ニジェールデルタの石油産出地帯(ナイジェリアはアフリカ最大の石油産出国です)における反政府勢力による石油施設攻撃に関するものが多いようです。
最近では、「ナイジェリアのタリバン」とも呼ばれているイスラム過激派「ボコ・ハラム(西洋の教育は罪)」によるテロ活動もよく見聞きします。

一般的にニュースというものはネガティブなものが多くなりますが、そうした点を割り引いても、いろんな問題を抱えるナイジェリアです。

きょう目にした記事は、上記の“ニジェールデルタの石油産出地帯”にも関連する、ロイヤル・ダッチ・シェルなど欧米石油資本による乱開発・環境汚染の問題です。

****黒い川、村を破壊=半世紀続く流出油汚染―輸出を優先、住民無視・ナイジェリア*****
黒く濁った川が半世紀の間、ナイジェリアの村々を破壊している。同国南部デルタ地帯はアフリカ最大級の油田だが、欧米の石油企業による乱開発が住民を無視して進められ、流出する黒い油膜で村は次々覆われた。現地から環境保護活動家ディネバリ・バレバ氏(33)が来日し、全国を回って実態を訴えている。

独立前の1950年代から始まった油田開発は、今やナイジェリアの国家歳入の8割を支える。しかし、欧米への輸出を優先し、油田やパイプライン周辺の環境破壊、住民の健康被害は放置されてきた。事態の改善を求めた環境活動家が軍事政権に処刑されたこともある。

デルタ地帯のボド市で生まれたバレバ氏にとって、子供の頃から「川は黒いもの」であり、そこで魚を釣って遊んだ。しかし、増水し畑に黒い水が入り込むと作物は枯れ、農地は使えなくなる。土を処理し肥料を与え畑を再生させても、また浸水する。両親の苦労を見詰めて育った。

大学を出て環境問題に取り組むようになったバレバ氏は2007年、大規模な流出事故に遭遇する。騒ぎを聞いて現場に駆けつけると「パイプラインの亀裂から噴水のように石油が噴き出している」のが見えた。原因は設備の老朽化。しかし「流出を止めるまで3カ月かかり、さらに翌年、同様の事故を再び起こした」と、事故の責任者、英オランダ系石油大手ロイヤル・ダッチ・シェルの対応をバレバ氏は強く批判する。

この相次ぐ事故で「流出油から辛うじてボドを守ってきたマングローブの林は死滅」し、汚染は井戸にも及ぶ。「住民はどこへも行き場がない。他に飲めるものはないから、油の浮いた水を飲んでいる」とバレバ氏は窮状を訴える。【10月27日 時事】
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4年間で3000回
原油流出事故としては、アメリカ・メキシコ湾の大規模流出が記憶に新しいところですが、ナイジェリアでは4年間に3000回(!)の原油流出事故が起きているとの報道もありました。

****ナイジェリア、4年間で3000回の原油流失事故が発生****
世界第8位の石油輸出国であるナイジェリアでは、2006年から前月までの間に、少なくとも3000回の原油流出が確認されている。国営ナイジェリア通信が27日報じた。

同日、石油各社の首脳を集めて開かれた会議で、ジョン・オディ環境相が明らかにしたもの。なお、流出量の概算は示されなかった。
オディ環境相は、英エネルギー大手BPの石油掘削施設の爆発に端を発したメキシコ湾の原油流出事故について、被害者補償のための基金が設立されたことに言及。「わが国も同様の試みを検討していく必要がある」と述べた。
また、首脳らに、原油流出問題に関して社員教育や啓蒙活動を徹底するよう求めた。

同国で操業する石油各社は、原油流出事故について、ニジェールデルタで活動する武装勢力の仕業だと主張してきた。こうした勢力は、潤沢な石油収入を地元にも公平に分配するよう強く求めて武力闘争を繰り広げている。【10年7月28日 AFP】
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高濃度ベンゼン汚染水を飲用
こうした、ニジェールデルタにおける原油による環境汚染は国連の“お墨付き”でもあります。
****ナイジェリア・ニジェールデルタの石油汚染は史上最悪規模、国連****
国連環境計画(UNEP)は4日に発表したナイジェリア最大の産油地帯ニジェール・デルタに関する報告書のなかで、同地帯の一角を占めるオゴニランドを数十年にわたり荒廃させてきた石油汚染について、史上最大規模の除去作業が必要だとの認識を示した。
さらにUNEPは、除去作業の費用として10億ドルを拠出するよう、石油産業とナイジェリア政府に求めた。

報告書は、オゴニランドの石油汚染が及ぼす広範囲な影響について2年間、実施した科学的調査の結果をまとめたもので、同地域の再生には少なくとも30年かかると予想した。
報告書によると、オゴニでは少なくとも10の共同体で、飲み水が高濃度の炭化水素で汚染されていた。オゴニランド西部のある共同体の井戸は、世界保健機関(WHO)の基準を900倍以上も上回る高い濃度のベンゼンで汚染されていたにも関わらず、人々はこの水を日常的に飲んでいた。

人権活動家らは、石油汚染の元凶として、1993年に同国から撤退するまでオゴニランドで操業していたナイジェリア史上最大の石油会社、英・オランダ系アングロ・ダッチ・シェル(現ロイヤル・ダッチ・シェル)を強く非難している。
シェルが同地からの撤退を余議なくされたのは、住民らの貧困に加えて、同社のパイプライン建設は環境を軽視したものだとの疑惑がきっかけで、地元で騒乱が発生したためだった。

地元のボド村は、2008年と09年の原油流出事故をめぐり、シェルに損害賠償を求める訴訟を英国で起こしていたが、シェルは今週になって、この流出事故に関する責任を認め、損害賠償することを明言した。
その一方で、シェルは流出した原油量は4000バレルで、オゴニランドの環境破壊の主な原因は、違法な石油精製や(オゴニランドに敷設された)パイプラインからの原油の抜き取りにあると主張している。【8月5日 AFP】
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“油の浮いた水を飲んでいる”【10月27日 時事】とか、上記記事の“世界保健機関(WHO)の基準を900倍以上も上回る高い濃度のベンゼンで汚染されていたにも関わらず、人々はこの水を日常的に飲んでいた。”ということで、発がんなどの健康被害が容易に予想できます。

住民による原油抜き取りと大規模事故、背景には貧困・格差
ただ、ロイヤル・ダッチ・シェルなど大手石油企業を若干弁護すれば、彼らも主張しているように、原油流出・環境汚染は企業側の問題だけでなく、ニジェールデルタの反政府勢力が石油施設を攻撃目標にして、パイプラインなどを破壊していることや、住民らによるパイプラインからの原油抜き取りによる部分もあります。

そして住民による原油抜き取りは往々にして大規模な爆発事故を引き起こしています。
首都ラゴス周辺でも、そうした事故が多発しています。

****ナイジェリアの石油パイプラインで火災、少なくとも45人が死亡****
ナイジェリア当局者が26日明らかにしたところによると、同国の首都ラゴス近郊の石油パイプラインで25日、住民が地中のパイプラインから原油を盗み取ろうとしている最中に引火して火災が発生し、少なくとも45人が死亡した。

ナイジェリアでは国民の9割が1日2ドル以下で生活しているため、大きな危険を冒して原油を盗もうとする者が多く、こうした事故がしばしば発生している。
昨年の12月26日には、別の地域でパイプラインが爆発し、250人以上が死亡した。(後略)【07年12月27日 ロイター】
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06年12月の250人以上の死者を出した爆発事故もラゴス周辺でした。
98年には1000人以上の死者を出す事故も起きています。
ナイジェリアは世界有数の産油国の一つであるにもかかわらず、その利益は一部の者によって独占されており、ナイジェリア国民1億3千万人のうち、そのほとんどが深刻な貧困状態にあります。
そうした貧しい村人たちは、石油を盗むことを生まれながらの権利だと考えているというような指摘【06年12月26日 ヘラルド ・ トリビューン】もあります。

莫大な富と国民の幸せをもたらすはずの石油産出が、ナイジェリアでは利権まみれの政治腐敗、富の格差、更に環境破壊を生んでいます。

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