(イラク内のイラン人難民キャンプ「キャンプ・アシュラフ」に対するイラク治安当局の弾圧は今回だけではないようで、写真は09年7月27日のものです。 “flickr”より By AshrafIran natarsid http://www.flickr.com/photos/40989090@N08/3768883696/ )
【イラン:「イラク政府の行動は正しい」】
あまり馴染みがありませんが、イランの反体制派組織に「ムジャヒディン・ハルク(MKO、イスラム人民戦士機構)」という組織があるそうです。
“親米・世俗政策を取ったパーレビ国王に反対して60年代に組織され、イスラム革命(79年)でも大きな役割を果たした。革命後、イスラム共和制を確立した最高指導者ホメイニ師らと路線対立して武装闘争に転じ、80年代のイラン・イラク戦争では、イラク側を支援してイランに対抗。イラク中部やパリに拠点を持つ。”【4月11日 毎日】
アメリカは、この反体制派組織MKOをテロ組織に指定していますが、イラン政府はアメリカによるMKOへの支援を疑っているという微妙な関係があるようです。
そのMKOがアメリカ・ワシントンでイランの秘密核関連工場を暴露しましたが、この動きもアメリカがMKOを使ってイランに揺さぶりをかけている・・・とも見られています。
一方、この暴露の直後、イラク軍がイラク内にあるMKOの活動拠点を急襲、イランとイラクの連携を印象づけています。
****イラン:反体制派「テロ組織」が核施設暴露 米揺さぶりか*****
米国がテロ組織に指定しているイランの反体制組織「ムジャヒディン・ハルク」(MKO)が7日、テヘラン近郊に秘密の核関連工場があると米ワシントンで公表。国際原子力機関(IAEA)も未把握の施設で、核兵器開発の疑念が深まった。イラン政府は9日、施設の存在を認めたが、その前日にイランと関係を深めるイラクの軍部隊がイラク国内のMKOの拠点を攻撃した。米国が反体制派の「テロ組織」を使い、イランを揺さぶっている可能性がある。
「イラン政府の核計画が平和利用でないことを示す新たな証拠だ」。AFP通信によると、ワシントンで7日に会見したMKO関係者が、衛星写真を手にテヘラン西郊カラジにある工場の存在を指摘した。遠心分離機の部品が作られ、イラン中部のウラン濃縮施設に設置されている約9000台をはるかに上回る10万台がこれまで生産されたという。
衛星写真をどう入手したかは不明だが、MKOは、02年8月にイラン政府による核施設建設計画を暴露したことでも知られ、米当局側との関係も浮上している。
これに対し、イランのサレヒ外相は9日、国営通信に工場の存在を認めたうえで「秘密施設ではない。(平和利用目的の)核計画に必要な関連部品を作っているだけだ」と反論。カラジには軍事施設や農業、医療目的の核研究施設があることは知られていたが、部品工場の存在を認めたのは初めて。今後、イランがIAEAに公開するかなどは不明だが、工場の存在を認めたうえで、核兵器開発を否定するのが得策と判断したとみられる。
一方、イラクでの動きが臆測を呼ぶ。MKOが工場の存在を指摘した直後の8日未明、MKOが活動の拠点とするイラク中部ディヤラ県のキャンプ・アシュラフに、イラク軍が急襲。AP通信によると、少なくとも12人が死亡、39人が負傷した。イランのサレヒ外相は9日、「イラク政府の行動は正しい」と述べ、両国が連携した攻撃との印象を与えた。
スンニ派主体のフセイン政権当時のイラクはMKOを好意的に受け入れ、シーア派のイランと対決姿勢を取り続けた。しかし、03年の同政権崩壊後はシーア派が勢力を強め、イランとの関係を強化している。
イランでは今年2月中旬以降、若者らによる民主化要求デモが再燃。イラン政府は「デモはMKOなど反体制組織、米国など外国勢力が扇動したものだ」と主張して弾圧を正当化した。具体的な組織の関与は不明だが、「国民による抗議」という事実を受け入れたくない政府はMKOへの批判をこれまで以上に強めている。
米国はMKOをテロ組織に指定しているが、イラン政府は米国によるMKOへの支援を疑っており、核施設暴露は米イラン関係にも影響を与えそうだ。【4月11日 毎日】
**************************
なお、イラク軍によるMKOのキャンプ・アシュラフ攻撃については、イラク政府はイラク軍との関係を否定しています。
****イラクのイラン人難民キャンプで銃撃事件、34人死亡 イラク軍が関与か****
国連は14日、イラクのディヤラ州にあるイラン人難民キャンプ「キャンプ・アシュラフ」が前週、イラク軍に銃撃され、女性を含む34人が死亡したと発表した。また、数十人が負傷しているという。
しかしイラク政府は、イラク軍はキャンプ・アシュラフの攻撃とは無関係だと反論。「現在、事件を捜査中だが、治安当局によると犠牲者たちはキャンプから逃げようとして、仲間の警備員に撃たれたものだ」と主張している。これまでにもキャンプの住民が逃亡しようとした事件は何回も起きているという。
このキャンプには、イランの反体制派組織「ムジャヒディン・ハルク(イスラム人民戦士機構、MKO)」のメンバーが暮らしている。
MKOはイランで1965年、当時のパーレビ国王に対抗するイスラム系左派組織として結成され、1979年のイラン革命で大きな役割を果たしたが、その後反体制派に転じた。イラン・イラク戦争ではイラクのサダム・フセイン大統領(当時)側につき、イラク国内のキャンプ・アシュラフを拠点に対イラン闘争を続けた。だが、2003年の米軍によるイラク侵攻で武装解除させられている。【4月15日 AFP】
********************************
MKOとアメリカ、イランとイラクの微妙な関係はハリウッド映画のようでもありますが、アメリカ軍の撤退とともに、シーア派中心のイラク・マリキ政権とイランの関係が更に強まりそうなことを予感させる出来事でもあります。
【「アメリカ抜き」の和平構築】
一方、7月からのアメリカ軍撤退を前にしたアフガニスタンでは、アフガニスタンとパキスタンが「アメリカ抜き」のタリバンとの和解交渉を進める動きもあります。
****パキスタン:アフガンと合同委設置 タリバンと和解目指し****
パキスタンのギラニ首相は16日、訪問先のカブールでアフガニスタンのカルザイ大統領と会談し、アフガンの旧支配勢力タリバンとの和解を目指す合同委員会の設置で合意した。米軍が両国で、タリバンを含む武装勢力掃討作戦を進める中、パキスタンとアフガンはそれぞれの事情もあり「米国抜き」の和平構築を狙っている可能性がある。
ギラニ首相は、会談後の共同会見で「我々は兄弟であり、両国民はこれ以上(武装勢力による攻撃に)苦しむべきではない」と述べ、合同委設置の意義を強調した。
パキスタンでは先月17日、米軍が同国北西部で無人機による空爆を実施したが、多数の民間人が死亡する誤爆だった。住民の反米感情が一層強まり、パキスタンはアフガン問題に関する米国、アフガンとの3カ国政府間会議(同26日)を欠席している。
一方、アフガンでは、カルザイ大統領が2010年以降、国民和平会議(ピース・ジルガ)の開催や、高等和平評議会の設置でタリバンとの和解を探ってきたが、成功していない。タリバンの最高指導者オマル師との和解を視野に入れているが、オマル師は対米強硬派とされ、「タリバン和解」の試みは米国など国際社会に受け入れられていないのが大きな要因だ。
合同委設置は、7月に予定されるアフガンからの米軍撤退開始をにらみ、パキスタン・アフガン主導の治安確保を探る目的もある。アフガンは、武装勢力が潜むパキスタン側からの協力を得る必要性にも迫られていた。
しかし、アフガン国境に接し部族支配地域でもあるパキスタン北西部は、事実上パキスタンの政府や軍の支配が及ばない。軍が昨年、米側の強い要請を受けて武装勢力掃討作戦を実施して以降、軍や軍情報機関ISIを狙ったテロ攻撃も続発している。
地元ジャーナリストは「最近の武装勢力は、タリバンや(国際テロ組織)アルカイダなどさまざまなグループが入り交じり、パキスタン軍の影響力がますます及ばない状態だ」と指摘しており、合同委設置により、タリバンとの和解促進につながるかは疑問視する向きが強い。【4月17日 毎日】
****************************
【パキスタン:「我々を除外した形では何も進まない」】
常々話題になるタリバンとパキスタン軍情報機関ISIの関係ですが、パキスタン側には「我々を除外した形では何も進まない」(ギラニ首相)とのお思いがあるようです。
****アフガン政権とタリバーン和解交渉にパキスタンも参加へ****
パキスタンのギラニ首相が16日、アフガニスタンを訪問し、カルザイ大統領と会談。カルザイ政権と反政府勢力タリバーンとの和解を目指し、ハイレベルの協議機関を設けることで一致した。パキスタン側には、カルザイ氏が進める和解路線に影響力を行使する狙いがあるとみられる。
両国は1月に外相レベルの共平委員会の設置で合意したが、これをギラニ首相とアフガン高等和平評議会のラバニ議長が加わる形で格上げし、軍や情報機関のトップもメンバーになるという。
パキスタンにはタリバーン指導部が潜んでいるとされ、パキスタン軍の情報機関(ISI)が一定の影響力を持つとみられている。ギラニ氏は昨秋、カルザイ政権とタリバーンの和解交渉について、「我々を除外した形では何も進まない」と記者団に語っていた。
ISIは昨年2月、カルザイ政権と接触を重ねていたタリバーンのナンバー2バラダル師をパキスタン南部で拘束。パキスタン抜きで交渉が進むことへの妨害とみられていた。【4月18日 朝日】
**************************
“ギラニ首相は昨年12月にもアフガンを訪問してタリバンとの和平交渉を支持する考えを表明した。ただ、その時点では、パキスタン国内で絶大な影響力を持つ軍の支持が得られるかが不透明だった。今回は軍幹部も同行し、パキスタン政府と軍が共に和平を支持する姿勢をカルザイ氏に伝えたとみられる。”【4月16日 読売】ということで、パキスタン側は政府・軍が協調して和平交渉を進める意向のようです。
どういう形の和平になるのか、アメリカの意に沿うものなのか・・・そこらはまだ不明です。
いずれにしても、アメリカ撤退後、パキスタンとしては宿敵インドに対抗するうえで、アフガニスタンにおける自国の影響力を強めたいのは間違いないところです。