孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中東情勢への独自対応②  カタ-ル、欧米諸国に協調し“貸し” イランとの関係悪化の懸念も

2011-04-11 20:28:27 | 国際情勢

(リビア空爆の共同作戦に参加するカタール空軍のミラージュ2000-5戦闘機 “flickr”より By Global News Pointer http://www.flickr.com/photos/58594229@N07/5567748782/

【「中東での指導的な地位を確立しようとの野心のあらわれだ」】
昨日は、混迷する中東情勢にあって、リビアへのNATO軍事介入に当初反対し、今また、リビア調停を仲介しようとするなど、独自の外交姿勢でその存在をアピールしているトルコを取り上げましたが、トルコとは異なるベクトルで注目を集めているのが湾岸の小国カタールです。

NATOの一員であるトルコがイスラム国の立場から当初反対したのに対し、カタールは逆に欧米諸国に協調して軍事介入に参加することで、アラブ諸国との協調・連携を演出したい欧米にとって重要な存在となりました。

****カタールが存在感 対リビア多国籍軍参加、米欧に「貸し*****
■シリアでは地域安定優先
民衆の反政府行動が中東・北アフリカに拡大する中、ペルシャ湾岸の産油国カタールが存在感を強めている。対リビア軍事作戦では、アラブとして多国籍軍に初参加し米欧に大きな「貸し」を作った。近年は中東各地で調停外交を展開、国内情勢が比較的安定していることもあり、米欧にとっての重要性も高まりつつある。

対リビアでカタールはミラージュ戦闘機6機を派遣した。外交面でも北東部ベンガジを拠点とする反体制派組織「国民評議会」をアラブ諸国で初めて承認し、反体制派の石油輸出を請け負い、資金調達にも協力する。
「西洋による干渉」との批判を避けたい米欧各国にとりカタールの関与は「きわめて重要」(ロンゲ仏国防相)で、各国のリビア政策を調整する「連絡調整グループ」の第1回会合もカタールで開催される。

近年は、スーダンのダルフール紛争の和平交渉や、レバノンの各政治勢力間の調停にも乗り出している。カタールのこうした外交面での積極姿勢について、エジプトの政府系シンクタンク「アハラム戦略研究所」の湾岸地域専門家、ムハンマド・エッズルアラブ氏は「中東での指導的な地位を確立しようとの野心のあらわれだ」と指摘する。

これまでアラブ世界では、エジプトとサウジアラビアの2地域大国が中心的な役割を果たしてきた。しかし、エジプトは現在、ムバラク政権崩壊後の混乱にあり、サウジは隣国バーレーンとイエメンの政情不安の対応に追われる。カタールとしては、米欧に対する発言力強化を図る絶好の機会-というわけだ。

人口約150万人ながら豊富な石油・天然ガス収入を誇るカタールには、米中央軍の前線司令部もある。米欧にとり、チュニジア政変後も大きな混乱が起きていない同国は魅力的な存在だ。2005年に三権分立を明記した憲法を発効させるなど、民主化の面でも評価は高い。

その一方でカタールは、今年3月以来、反体制デモへの弾圧を強めるシリアのアサド政権に対し、他の湾岸諸国とともに支持姿勢を示している。エジプトやチュニジアではデモを詳細に報じたカタールの衛星テレビ局アルジャジーラも、シリアに関しては抑制的な報道ぶりが目立つ。
カタールには、イランとも関係が深いシリアが揺らげば中東全体の不安定化につながりかねないとの懸念があるためとみられ、民主化促進より地域の安定維持を優先させるしたたかさをもみせている。【4月5日 産経】
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全方位外交の変質で、イランからの反発も懸念
カタールは、先月28日には、フランスに続いて、リビア反体制派「国民評議会」による暫定政府を承認しています。
こうした目立つ“独自の対応”は、リビア反体制派の批判にさらされているトルコのように、軋轢もともないます。
カタールの場合、地理的に対岸はイランであり、これまでイランなどの反米国と欧米諸国の両方と良好な関係を築く「全方位外交」を展開してきました。
今回のリビア軍事介入参加は、欧米寄りを明示した形で、今後のイランからの反発も懸念されています。

****カタール:リビア問題で目立つ欧米寄り イラン反発の懸念****
混迷するリビア情勢を巡り、ペルシャ湾岸の小国カタールの関与が際立っている。アラブ諸国の中で先んじて欧米中心の多国籍軍による軍事作戦に協力したほか、反体制派を支援するなど多様な動きを見せる。イランなどの反米国と欧米諸国の両方と良好な関係を築く「全方位外交」を反映したものだが、リビア情勢では欧米寄りの姿勢が目立つ形となっており、イランからの反発を招きかねないという懸念も出ている。

カタールは先月28日、リビア反体制派「国民評議会」による暫定政府をフランスに続き早々と承認した。29日のロンドンでの国際会議で、カタールのハマド首相兼外相は、ヘイグ英外相と並んで声明を発表し、今後の対リビア政策を調整する関係国会合も今月13日にカタールで開かれる。
軍事介入でも他のアラブ諸国が慎重になる中、カタールは戦闘機を派遣した。カタールの衛星テレビ局「アルジャジーラ」が反体制派の放送に協力するなど情報戦略も支援。反体制派が資金調達するための原油輸出にも協力する方針だ。

原油と天然ガスが豊富なカタールは人口約160万人で、イスラム教スンニ派住民が大半。サウジアラビア(スンニ派)、イラン(シーア派)の二つの地域大国にはさまれる中で、積極的な全方位外交を展開。近年はレバノンの政治対立やイエメン、スーダンの紛争で仲介役を務めて注目された。
近く行われるアラブ連盟事務局長選には、3月まで湾岸協力会議(GCC)事務局長を務めたカタールのアティーヤ氏の出馬が伝えられ、より大きな舞台での発言力強化を狙う同国の思惑がのぞく。

順風満帆に見えるカタール外交だが、懸念もある。ヘルミダスバーバンド・テヘラン大教授(中東政治)は「カタールは、国際社会で大きな役割を果たそうとの野心を高め、欧米関与を強めている。今後、イランとの関係は弱まり、全方位外交は変質するだろう」と話す。【4月8日 毎日】
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揺らぐ中東情勢の枠組み
そのイランと湾岸諸国の関係は、バーレーンを巡るサウジアラビアなど湾岸諸国の介入を巡って、シーア派対スンニ派という宗派対立の様相を強めています。

****イラン:湾岸諸国との関係悪化 バーレーン巡り非難合戦****
イランとペルシャ湾岸諸国の関係が急速に悪化している。反体制デモで混乱する湾岸のバーレーンに対し、サウジアラビアなどが3月中旬に軍を派遣したことからイランが反発、これに湾岸諸国が「内政干渉だ」と非難合戦を繰り広げている。イスラム教シーア派の地域大国イランと、スンニ派が政権の主体の湾岸諸国との対立が深まれば、中東全体の不安定化につながりかねない。

「サウジアラビアによる中東地域での火遊びは何の利益にもならない」。イラン国会の国家安全保障外交委員会は先月31日、サウジ軍のバーレーンへの介入を非難。これに対し、サウジなど湾岸6カ国で作る「湾岸協力会議(GCC)」は今月3日、リヤドで緊急外相会議を開き「(イランの言動は)内政干渉で、国際条約に反する」との声明を出した。

バーレーンでは2月中旬からシーア派住民によるデモが続き、自国へのデモ波及を恐れるサウジなどがバーレーンに軍を派遣。先月16日にはサウジ軍がバーレーンで現地当局とともにデモ隊を弾圧し、その後も厳戒態勢を敷いている。一連のデモ犠牲者は計24人で、サウジ介入後が半数以上を占める。
湾岸諸国は、イランがバーレーンで影響力を強めることを警戒している。だが、バーレーン国民の多くは自国政府に不満を持つが、イラン、湾岸のどちらの介入も望んでおらず「住民不在」の中で周辺国の綱引きが続く。

また、湾岸諸国の介入には、イラクのマリキ首相(シーア派)やレバノンのシーア派武装組織ヒズボラなどシーア派勢力も警戒感を示している。
こうした中、イランのアフマディネジャド大統領は4日の会見で、「この地域にサッカーボールを入れたのは米国だ」と語り、反米国家イランと親米の湾岸諸国との対立を米国があおっているとの認識を繰り返した。【4月5日 毎日】
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中東・北アフリカ諸国における一連の民主化要求運動は、当事国だけでなく、リビア軍事介入をめぐるトルコやカタールの対応、エジプト・シリアなどとの関係を前提にしてきたイスラエルの安全保障体制、カタール軍事介入を巡るシーア派対スンニ派の宗派対立の激化など、これまでの中東情勢の枠組み大きく揺さぶる展開となっています。

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