孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

バーレーン  周辺国を巻き込む宗派対立 強硬姿勢の政府側、最大野党解党へ

2011-04-16 20:28:40 | 国際情勢

(3月14日 バーレーンに進駐したサウジアラビア治安部隊 “flickr”より By Sniper Photo Agency
http://www.flickr.com/photos/sniperphotocouk/5540592500/ )

GCC「(イランの内政干渉」、イラン「サウジの火遊び」】
ペルシャ湾岸の小国バーレーンでの民主化運動は、多数派シーア派住民をスンニ派王制が支配する構図にあって、シーア派対スンニ派という根深い宗派対立の様相を呈していますが、スンニ派主体のサウジアラビアなど湾岸6カ国で作る「湾岸協力会議(GCC)」が現王制支持の軍事介入をしたことで、これを批判するシーア派のイラン、やはりシーア派の影響が強いイラクが反発する形で、周辺諸国を巻き込んだ対立に発展し、中東情勢不安定化を懸念させる火種となっています。

****イラン:湾岸諸国との関係悪化 バーレーン巡り非難合戦****
イランとペルシャ湾岸諸国の関係が急速に悪化している。反体制デモで混乱する湾岸のバーレーンに対し、サウジアラビアなどが3月中旬に軍を派遣したことからイランが反発、これに湾岸諸国が「内政干渉だ」と非難合戦を繰り広げている。イスラム教シーア派の地域大国イランと、スンニ派が政権の主体の湾岸諸国との対立が深まれば、中東全体の不安定化につながりかねない。

「サウジアラビアによる中東地域での火遊びは何の利益にもならない」。イラン国会の国家安全保障外交委員会は先月31日、サウジ軍のバーレーンへの介入を非難。これに対し、サウジなど湾岸6カ国で作る「湾岸協力会議(GCC)」は今月3日、リヤドで緊急外相会議を開き「(イランの言動は)内政干渉で、国際条約に反する」との声明を出した。

バーレーンでは2月中旬からシーア派住民によるデモが続き、自国へのデモ波及を恐れるサウジなどがバーレーンに軍を派遣。先月16日にはサウジ軍がバーレーンで現地当局とともにデモ隊を弾圧し、その後も厳戒態勢を敷いている。一連のデモ犠牲者は計24人で、サウジ介入後が半数以上を占める。

湾岸諸国は、イランがバーレーンで影響力を強めることを警戒している。だが、バーレーン国民の多くは自国政府に不満を持つが、イラン、湾岸のどちらの介入も望んでおらず「住民不在」の中で周辺国の綱引きが続く。
また、湾岸諸国の介入には、イラクのマリキ首相(シーア派)やレバノンのシーア派武装組織ヒズボラなどシーア派勢力も警戒感を示している。
こうした中、イランのアフマディネジャド大統領は4日の会見で、「この地域にサッカーボールを入れたのは米国だ」と語り、反米国家イランと親米の湾岸諸国との対立を米国があおっているとの認識を繰り返した。【4月5日 毎日】
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軍事介入している湾岸諸国(GCC)側が、イランの反発を「内政干渉」と批判するというのも奇妙な感はありますが・・・。
GCCの言い分は、GCCの軍事介入はバーレーン政府の要請による正当なものであり、イランがGCC加盟各国のスンニ派による君主制を脅かす目的で暴動を扇動し、GCC加盟国の「主権を侵害」しているというものです。

なお、イラン保守強硬派の一部には、16世紀以降の一時期、イランがバーレーンを支配した歴史を背景に「バーレーンは、イランの一部」との主張も根強くあるようです。
“「バーレーンは、シャー(イラン国王)と米英政府の違法な取引でイランから分離した。バーレーン州および州民は母なる大地イランへの返還を望んでいる」。イラン政府系紙ケイハンは昨年7月、同社社長の論評を掲載した。イラン側は、外務報道官が「私人の見解だ」と断り、イランのモッタキ外相がバーレーンに飛ぶなど釈明に追われた。”【3月22日 毎日】

ヒズボラを警戒
レバノンのシーア派武装組織ヒズボラへの警戒ということについては、レバノン人の国外退去や調査が行われています。
****バーレーン:ヒズボラを警戒「テロに関与*****
イスラム教シーア派住民の抗議デモによる混乱が続くのを受け、ペルシャ湾岸のバーレーン政府が、レバノンのシーア派組織ヒズボラに対する警戒を強めている。
現地紙「ガルフ・デーリー」によると、バーレーン当局は26日までに、ヒズボラに関与して国内混乱を招いたとしてレバノン人労働者3人を逮捕。近く90人を国外退去させ、約4000世帯の国内在住レバノン人も順次関与を調べる。

ヒズボラの最高指導者ナスララ師は19日の演説で、バーレーン政府のシーア派住民弾圧やサウジアラビア軍受け入れを厳しく批判。バーレーン政府はこれに強く反発し、ハリド外相は24日、「国内のテロ活動にヒズボラが関与している証拠をつかんだ」と語った。同政府は22日以降、レバノンとの航空機の直行便を休止。既にイラン、イラクとの直行便も止めている。【3月26日 毎日】
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パキスタン人が「市民弾圧に加担した」として標的
こうしたバーレーン政府側のイラン、ヒズボラへの警戒のほか、シーア派住民のパキスタン人などの外国人労働者への反感も募っています。
****バーレーン:シーア派住民、相次ぎ外国人襲撃*****
イスラム教シーア派住民による抗議デモが続く中東バーレーンで、シーア派住民によるとみられる外国人襲撃事件が相次いでいる。同国では、パキスタン人などスンニ派イスラム教徒の外国人が軍や警察に多い。このため、特にパキスタン人が「市民弾圧に加担した」として標的となっている。建設労働者なども狙われているため、被害を恐れて帰国する外国人も目立ち始めた。(中略)

バーレーンはシーア派が人口の6割を占めるが、少数のスンニ派が支配層を握る。政府はスンニ派重視政策を続け、スンニ派の外国人労働者を歓迎。シーア派住民の就職が難しい比較的高給の軍や警察でも採用してきた。
2月中旬以降、バーレーン治安当局は、デモを続けるシーア派住民を繰り返し弾圧。当局側にパキスタン人がいることに反発して今月中旬以降、一部の住民らが次々に襲撃行動に出たとみられる。

しかし、5万人以上とされるパキスタン人労働者の大半は建設現場などで働く低賃金労働者だ。バーレーンの外国人労働者保護協会によると、治安悪化で帰国する労働者が増えているが、勤務先にパスポートを管理されて手続きが取れない人も多いという。【3月28日 毎日】
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バーレーン政府は、先月1千人近いパキスタン退役軍人を新たに治安部隊要員として雇用したとも報じられています。
****バーレーン治安部隊、パキスタン人を大量雇用****
パキスタンの有力英字紙ニューズは15日、バーレーンの治安部隊に先月1千人近いパキスタン退役軍人が新たに雇われたと報じた。バーレーン政府はイスラム教シーア派住民によるデモの弾圧のためにスンニ派が多いパキスタンから要員を増強しているとみられる。
同紙がパキスタン退役軍人のための財団の関係者の話として伝えたところによると、バーレーン政府は以前から治安部隊にパキスタン人を雇用、現在約1万人がいるとされる。財団関連企業は今年5月までにさらに1500人を新規雇用する予定だが、9割はバーレーンに送られるという。
財団はバーレーンで大規模なデモ弾圧が始まる2週間前の3月上旬、パキスタン地元紙にバーレーン治安部隊への求人広告も出していた。給与や待遇が良いため、中途退役して再就職する軍人も多いという。【4月15日 朝日】
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強硬姿勢を続ける政権側
イラン、イラク、レバノン、パキスタンを巻き込んだ対立が続いていますが、GCC軍事介入など強気のデモ弾圧が目立ちます。
チュニジアやエジプトの事例が「譲歩したら崩壊にまで追いやられる」という教訓となっているのでしょうか。また、リビア・カダフィ政権の「結局は力だ」という姿勢が参考になっているのでしょうか。
そうした中で、クウェートの仲介も報じられていました。

****バーレーン:政府と野党との対話 クウェートが仲介へ****
反体制デモが散発的に続くペルシャ湾岸のバーレーン情勢を受け、クウェート政府が、デモを主導するイスラム教シーア派野党とバーレーン政府との対話の仲介を申し出、野党が27日までに受け入れたことが分かった。仲介が順調に進めば、頓挫している対話が動き出す可能性がある。

シーア派野党「イスラム国民統合協会」によると、クウェートのサバハ首長が同協会に仲介を打診。同協会は、サウジアラビア軍の撤退や政治犯解放などの条件が整えば政府との対話に応じることを同首長側に伝えた。同協会のイブラヒム・マタル前国会議員(デモ弾圧に抗議して辞任)は毎日新聞に「トルコや米国など複数の国から仲介の打診があったが、クウェートが最も我々を理解していると判断した」と語った。【3月27日 毎日】
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しかし、政府側の強硬姿勢は変わらないようです。最大野党を解党する動きに出ています。

****シーア派最大野党会派の解党に着手 バーレーン政府*****
バーレーン政府が、反政府デモを主導したイスラム教シーア派の最大野党会派・イスラム国民統合協会(ウィファーク)の解党手続きに着手した。スンニ派王室が実権を握る政府が議会からのシーア派勢力排除を狙ったもので、民主化運動はさらに抑え込まれる形となりそうだ。
法務・イスラム問題省は14日の声明で、ウィファークの解党を裁判所に申し立てたと発表。「憲法と法律に違反し、社会の平穏を乱した」ことを理由としている。結論が出るには1カ月ほどかかるとみられる。国営通信は15日、「(政府は)証拠が出そろうまで措置は取らない」と伝えた。

ウィファークは穏健シーア派で、昨年10月の国民議会選挙(定数40)では最多の18議席を獲得。今回の措置に対して弁護士と対応に追われており、15日のイスラム教金曜礼拝後の抗議行動は呼びかけていない。
バーレーンでは2月中旬から、ウィファークなど野党7団体が主導する民主化要求デモが始まったが、主張は「王制打倒」へと変化した。ハマド国王は3月中旬、サウジアラビアなどスンニ派の湾岸諸国に援軍を要請。非常事態令を宣言し、弾圧を強めた。
これを受け、ウィファーク側はこれまで拒んでいた政府との対話を模索する姿勢を見せ始め、アリ・サルマーン事務局長は13日、朝日新聞の取材に、「真の立憲君主制の実現を求めており、王制打倒は目指していない」と強調。「数週間後にも王室と対話を始めたい」と述べていた。
それだけに、解党は寝耳に水で、ウィファーク関係者は「対話どころではなくなった。最悪の展開だ」と反発している。

ウィファークの説明によると、「王制打倒」の要求は、後にデモに合流した反体制組織や、インターネットでデモ参加を呼びかけた若者グループらによるものだったという。
しかし、デモに対抗してつくられたスンニ派の政治組織・国民統合の会のマフムード議長は、「ウィファークは過激な連中の主張を止めようともしなかった。王制打倒という目的があるのは明らかだ」と不信感を隠さない。
シーア派を国教とするイランがデモを扇動したとみるバーレーン政府は、国民の多数を占めるシーア派に支持されているウィファークの解党で、イランやシーア派の影響力拡大を食い止める狙いがあると見られる。【4月15日 朝日】
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