孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インド  世界最大の原発計画推進 「フクシマ」で反対運動も高まる

2011-04-25 21:35:15 | 世相

(3月25日、インド・デリーでの反原発デモ “flickr”より By Joe Athialy http://www.flickr.com/photos/joeathialy/5559159368/

世界最大の「原発パーク」構想
世界各国における「フクシマ」を契機にした原発行政の“見直し”や、“従来どおり推進する”といった影響・反応については、これまでも取り上げてきましたが、今後大幅な電力需要増加が見込まれるインドでも、世界最大のジャイタプール原発建設計画をめぐって論議が高まっており、建設反対運動で死者も出ています。

****インド:反原発デモで1人が死亡 福島第1事故で高まり****
インド政府が世界最大の原発建設を予定する同国西部ラトナギリで18日、計画に反対するデモ隊が一部暴徒化し、警察の発砲で住民1人が死亡、数人が負傷した。反対運動は数年前から起こっているが、福島第1原発事故をきっかけに運動は高まりをみせ、死者が出たのは初めて。

住民が反対するのは、ジャイタプール原発(原子炉6基、出力計990万キロワット)計画。完成すれば東京電力の柏崎刈羽原発を抜き、世界最大となる。原子炉はフランスが提供する。
デモ参加者が19日、毎日新聞に語ったところによると、予定地近くに18日、住民ら約700人が集まり、一部が重機などを破壊した。警察が警告射撃し、警棒で女性や子供の参加者を殴ったため、デモ隊が暴徒化し、投石などで警察側にもけが人が出たという。デモ隊の数十人が拘束された。19日も商店などが閉められ緊張が続いているという。

ムンバイの反原発活動家らによると、現地は良好な漁港でマンゴーの特産地としても知られる。原発予定地が海岸に近く、福島第1原発の事故以降、地震・津波を恐れる声が高まっているという。
計画では、約700ヘクタールの敷地に職員の居住区などを含めた「原発パーク」を築く構想。約2300世帯が立ち退きを要求されたが、反対の住民が多く、補償金を受け取ったのは約30世帯にとどまっている。営業運転開始時期などは未定。【4月19日 毎日】
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【「ノーモア・チェルノブイリ、ノーモア・フクシマ」】
騒動・混乱の様子については、下記ルポがあります。
****インド:「子供らのため阻止」 西部の原発建設予定地ルポ*****
・・・・18日に起きた反対デモで住民1人が警察に射殺された現地を訪ねると、住民たちは、東京電力福島第1原発の事故に不安を募らせ、「子供たちの未来のために必ず阻止する」と言った。日本や米国など原発先進各国が本格参入を狙うインドだが、政府は「世界最大の民主国」をうたうだけに、原発推進策の見直しを求められる可能性が出てきた。(中略)

18日の抗議デモは、4月中旬、地元住民に通告なく重機やセメントなどの資材が予定地に持ち込まれたのがきっかけだった。福島第1原発から海に放出された汚染水や土壌汚染の問題が関心を集めており、予定地に近いマドバン村の農民らが工事を阻止しようと立ち上がった。
参加者の中には女性や子供も多くいたが、警察が警棒で殴ったという話が周辺住民の間に広がり、漁師ら数百人が警察署を襲撃、車両に放火する騒ぎに発展。ナテ村の漁師タブレズ・アブドル・サタールさん(30)が警察に射殺された。(中略)
 
ジャイタプール原発では、冷却水をくみ上げる電力節約のため、高台を海抜7メートルまで掘り下げて設置する計画で、漁師たちは「(東日本大震災のような)ツナミには耐えられない」と訴えた。
デモに参加したマドバン村の女性ランジェナさん(61)は、「私たちは、フクシマの事故とその後の悲惨な状況を知り、『これでインド政府も計画を見直すだろう』と安心していた」と話す。そこに突然、重機が入ったことで住民を動揺させ、混乱に発展したというのだ。(後略)【4月24日 毎日】
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逼迫する電力需給
インドのシン首相は今回の騒乱の直前、「温暖化問題などを冷静に考えるべきだ」と述べ、福島の事故にかかわらず原発を推進する姿勢を見せていました。そうした中でラメシュ環境相が建設計画の見直しを否定したことが引き金となったと見られています。

インドの原発推進姿勢の背景には、現在の電力不足、将来の大幅な電力需要増加の見通しがあります。
“インドは深刻化する電力不足に悩まされている。電力不足率は10%前後に上り、全世帯の半数近くが電気のない生活を送る。その一方で、工業化と収入増加によって、電力需要は年平均10%以上の伸びを見せている。”【4月20日号 Newsweek】

昨年末にカンクンで開催された地球温暖化に関するCOP16で、対立する先進国と途上国の橋渡し役として調整に活躍したインドのラメシュ環境相は、国内大規模開発に環境保護の立場から多くの規制を課し、インド政界にあって異色の政治家として注目されている人物ですが、その彼が原発建設にゴーサインを出したのは、そうしたひっ迫する電力事情があります。

国際的にも、アメリカ・ブッシュ政権は高成長国のインドと民生用原子力協定に合意し、フランスやロシア、日本も「原発新市場」インドへの進出を狙っています。

2050年には現在の100倍へ
しかし、インドの原発推進については、その拡大計画のスピードが、50年までに現在の発電量の100倍に増やすというようにすさまじいこと、これまでもインド原発はたびたび事故を起こしているように管理上の懸念があること、導入予定のフランス原発に設計上の疑問があること、規制機関も独立性が疑問視されることなどの問題点が指摘されています。

****インド流「デタラメ」原発の悪夢****
インド 政府は世界最大の原発に意欲を燃やすが、管理体制も規制機関も問題だらけ
・・・・住民が反発するのには、それなりの訳がある。そして事態に不安を感じるべきなのは、地元の農家や漁師だけではない。
08年、インドとアメリカは民生用原子力協定に調印し、世界に論議を巻き起こした。当時アメリカ側が最も懸念していたのは、インドが核拡散防止条約(NPT)の批准を拒否しているにもかかわらず協定を結んだことで、ほかの国も核兵器開発に意欲を燃やすのではないかということだった。

だが日本の福島第一原発が危機的状況にある今、真のリスクは原発そのものにあるという見方が出始めている。「(日本と)対照的に、管理や備えに問題があるインドは深刻度が低い緊急事態にも対応できない」と、インドの原子力規制委員会(AERB)のA・ゴパラクリシュナン元議長は指摘する。(中略)
 
インド原子力発電公社(NPCIL)は昨年、ジャイタプールに建設予定の欧州加圧水型炉(EPR)6基のうち最初の2基の建設契約を、フランスの原子力大手アレバと結んだ。1基当たりの出力は165万キロワット。すべて完成すれば、世界最大の原子力発電所が誕生する。
これは壮大な計画の手始めにすぎない。インドは08年、原子力発電の目標値を「20年までに20ギガワットから「50年までに275ギガワット」に引き上げた。原子力供給業界による民生用原子力技術や核燃料の輸入を認めるためだ。輸入解禁後は目標値を再度引き上げ、現在の発電量の100倍に相当する「50年までに455ギガワット」とした。

事故の前例と怪しい技術
この拡大スピードには、恐ろしさを感じる。インドの原発で何度か「ニアミス」が起きている事実を考えれば、なおさらだ。
国立シンガポール大学の助教で、エネルギー技術などに詳しいベンジャミン・ソバクールの報告によれば、「タラプール原発は79年に部分的なメルトダウンを起こし、ナローラ原発1号炉は93年に火災で全電源を喪失した。95年には、ラジャスタン原発が2ヵ月にわたって湖に放射能汚染水を放出していたと判明した。06年12月には、ジャドゥゴダのウラン鉱山のパイプラインが破裂し、有毒廃棄物が100キロ先まで広がった」。

(中略)福島第一原発事故の前から、ジャイタプールの計画は国内の反核団体の疑問の声にさらされてきた。核軍備縮小・平和連合(CNDP)は「実地に試されていない」技術だとして、アレバが関発した加圧水型炉そのものに疑いの目を向けている。
問題の原子炉はイギリスやアメリカの原子力規制機関から、事故防止システムに問題があると指摘されている。アレバがフィンランドやフランスで手掛ける同様の原子炉建設計画は延期が続く。原因は基本的な建設ミスにあるようだ。
「アレバが(90年代末にフランスで建設した)旧世代型原子炉には設計上の欠陥があったが、それが判明したのは完成後だった」と、英グリニッジ大学のスティーブン・トーマス教授エネルギー政策)は言う。「アレバの建設実績や運用実績が確実になるまで待てばいいのに、なぜインドはリスクを冒すのか」
アレバ側が電子メールで寄せた回答によれば、設計上の問題について各国の当局者は「EPR自体の総合的な安全性に疑問を差し挟む」ものではないと明言したという。(中略)

独立性のない規制委員会
(中略)ジャイタプールの住民にしてみれば、なぜ自分たちの土地がアレバの原子炉の「試験場」にされるのか、納得がいかない。
原発建設予定地にある町や村は経済的に潤っている。地元の土壌は建材として国内各地へ送り出され、ブランド品のマンゴーの栽培も盛んだ。自然な経済発展を遂げている地域だからこそ、地元農家2000軒強のうち112軒しか、資産接収に対する政府の補償金を受け取っていないと、地元の原発建設反対運動家のミリンド・デサイは言う。

NPCILは、ジャイタプール原発が環境に深刻な打撃を与えることはないとしている。建設地の地理的条件や技術革新のおかげで、旧世代型の原子炉を持つ福島第一原発より自然災害に強いと、アレバも主張する。
だが強硬に原発建設を推し進める当局やNPCILのやり方を見る限り、計画に当たってコストや地元住民の権利、環境への影響や原子炉の安全性を考慮したとは思えない。

AERBには、独立機関としての機能が欠如していると見る向きは少なくない。ジャイタプール原発建設に反対する地元のNGOによれば、ある会議の際に当局者が「AERBはフランス政府から圧力をかけられている」と発言した。(後略)【4月20日号 Newsweek】
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日本の原発論議
なお、アメリカ・ハーバード大学のマイケル・サンデル教授は22日、今後の日本における原発論議について、次のように語っています。

****原発議論が民主主義深める」サンデル教授インタビュー****
 ――福島第一原発の問題をどう見ているか。
危機が起きる前、米国は原発推進に向かっていたが、再考を迫られた。他のすべての国も、エネルギー政策の安全性やリスクを新たな枠組みで議論することが避けられないだろう。
だが、根本的には、膨大なエネルギー消費に依存する物質的に豊かな生活様式をどうするか、我々がどんな社会に住みたいかという価値観の問題になる。

 ――日本での原発の賛否をめぐる議論は激しいものになるかもしれない。
私のアドバイスは、思慮深く、丁寧な議論をすること。絶対に議論を避けてはならない。社会が直面する最も困難な課題について、賛否両派が相互に敬意を持って、公然と討議できれば、民主主義は深まる。だからこそ、建設的に議論するための枠組みの設定が非常に重要となってくる。

 ――誰が枠組み設定を担うべきか。
政治指導者に責任があるが、しばしば機能しない。有権者が望まないからだ。民主主義に不可欠な、自ら考えて議論する市民を育む教育の責任が大きい。メディアも意味ある議論を提起する義務がある。 (後略)【4月24日 朝日】
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