(テリー・ジョーンズ牧師の暴挙に対する抗議行動は、アフガニスタン同様に反米感情が高まるパキスタンでも行われています。写真は4月1日のパキスタン・ラワルピンディでの抗議行動 “flickr”より By Roomi Syal
http://www.flickr.com/photos/roomisyal/5579781626/ )
【暴徒化したデモ参加者が国連事務所を襲撃】
イスラム教で神聖視される預言者やコーランに対する欧米における批判(あるいは“冒涜”)、それに対するイスラム諸国における民衆の反発という宗教的トラブルはこれまでもしばしば発生していますが、同様の構図で、アメリカ牧師のコーラン焼却に対する抗議・暴動がアフガニスタンで高まっています。
****アフガン南部10人死亡 コーラン焼却 抗議デモ激化****
アフガニスタンで、米国の牧師がイスラム教の聖典コーランを焼却したことへの抗議デモが激化している。北部バルフ州マザリシャリフで1日、暴徒化したデモ参加者が国連事務所を襲撃、外国人職員や警備員7人を殺害したのに続き、2日には南部カンダハルでも大規模な抗議デモが発生、ロイター通信によれば10人が死亡、83人が負傷した。コーラン焼却はイスラム教徒の怒りを招いたほか、くすぶる反米感情を刺激しており、今後も各地で抗議デモが起こる可能性がある。
1日の国連施設襲撃後、同州のヌール知事は「武装勢力がデモに便乗して施設を襲撃した」と批判。地元警察は約30人を拘束した。ただ、イスラム原理主義勢力タリバンのムジャヒド報道官はロイター通信に対し、関与を否定した。
同日のデモはイスラム教の金曜礼拝後に始まり、「米国に死を」などと叫んだデモ隊の一部が国連アフガニスタン支援団(UNAMA)の施設に侵入。警備兵の銃を奪い職員に発砲したほか、建物に放火した。
マザリシャリフで、7月から始まる駐留外国部隊からアフガン側への治安権限移譲への影響は少ないとみられるが、アフガン側の治安能力を問う声が改めて強まりそうだ。
一方、2日のカンダハルのデモでも、一部が国連施設に向かう動きを見せた。街には銃声が響きわたり、煙も立ち上ったが、事前に治安当局がデモ隊の施設侵入を阻止したという。
国連施設襲撃について、国連の潘基文事務総長は「言語道断で卑劣だ」との声明を発表した。オバマ米大統領も「最も強い調子で非難する」と語った。
コーラン焼却は3月20日、米フロリダ州の教会で行われた。中心人物は昨年9月、焼却計画を掲げて国際的な批判を浴びたテリー・ジョーンズ牧師。【4月3日 産経】
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“群衆に襲われた北部マザリシャリフの国連事務所は、自爆テロを警戒して、高さ3メートルほどのぶ厚い壁に囲まれていた。群衆に対し、地元警察は当初、警告射撃で解散させようとしたが失敗。群衆の一部は武装。壁によじ登り、警備員から銃を強奪、火を放った。国連の外国人職員7人が死亡。鎮圧されるまで約3時間かかった”【4月2日 朝日】ということで、ロイター通信は当初、アフガン警察の話として、殺害された中に首を切り落とされた外国人がいたと報じました、国連はこれを否定しています。
【懸念される治安権限移譲への影響】
アフガニスタンのカルザイ大統領は3月22日、情勢が不安定な南部ヘルマンド州の首都ラシュカルガーを含む4都市3州で、NATOが主導する国際治安支援部隊(ISAF)からアフガニスタン側への治安権限移譲を7月から開始することを明らかにしています。
今回暴動の起きたマザリシャリフもこの中に含まれていますが、比較的平穏な都市として、問題は少ないと見られていた地域です。
上記【産経】記事では、“影響は少ないとみられるが・・・”ともありますが、「アフガン側の治安能力不足は明らか。権限移譲を予定通り進めるかどうか、議論は必至だ」と指摘する駐アフガニスタン外交関係者の声なども報じられています。
【広まる外国軍への嫌悪感】
事件の背景には、米軍などの軍事作戦による民間人犠牲者の増加へのアフガニスタン国民の批判がありますが、特に“非武装の民間人3人を殺害した米軍兵士が3月下旬、軍法会議で禁錮24年の判決を受けた。その兵士らが遺体をもてあそんでいる画像を独誌が報じ、アフガンのテレビでも放送された”【4月2日 朝日】という事情もあります。
この米軍兵士による民間人殺害事件は、戦場における狂気として以前も取り上げたことがありますが、以下のようなものでした。
****アフガン駐留米兵に民間人殺害容疑、遺体の骨を所持****
アフガニスタンの民間人3人を殺害し、共謀して犯行の隠蔽(いんぺい)を試みたとして、アフガン駐留米兵12人が起訴されたことが同日公表された米陸軍文書で明らかになった。兵士らの中には、被害者の遺体の骨を所持していた者もいたという。
事件は、旧支配勢力タリバンの影響力が強いアフガニスタン南部カンダハル州にあるラムロッド前線作戦基地に最近配置された兵士らが、今年1月、2月、5月にアフガニスタン人3人を殺害したというもの。
起訴状によれば兵士らは、被害者らに向かって手投げ弾を投げつけた後、銃撃したとされる。1件以上の殺人に関与したとして兵士5人が、内部告発しようとした仲間を殴るなどして事件の隠ぺいを図ったとして兵士7人が起訴された。
■遺体の頭蓋骨や手足の骨、歯を所持
検察官によると、容疑者のうちカルビン・ギブス二等軍曹は、殺害したアフガニスタン人の遺体から指、脚、歯の骨を持ち去って所持していた。また、マイケル・ギャグノン特技兵は、遺体の頭蓋骨を所持していたとされる。さらに複数の兵士に遺体の写真を撮影した容疑が、コリー・ムーア特技兵には遺体をナイフで刺した容疑がかけられている。
その他、複数の兵士が、大麻使用やその他の違法行為について告発しようとした仲間の兵士1人を襲って脅迫した容疑に問われている。(後略)【10年9月10日 AFP】
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【「責任があるとは感じない。行いも変えない」】
一方、今回の暴動のきっかけとなったコーラン焼却は、“例の”“お騒がせ” テリー・ジョーンズ牧師によるものです。
****コーラン焼却までの映像、米教会が自身のサイトに掲載*****
アフガニスタンでデモ隊が国連事務所を襲撃した事件。問題の発端となった米フロリダ州のキリスト教会は3月下旬、イスラム教の聖典コーランを「公開裁判」にかけて「有罪」判決を下し、燃やすまでの様子を記録した映像を自分たちのインターネットサイトに掲載していた。
同サイトによると、裁判で「検察」側は、コーランは永遠の起源を持たず、神聖ではない、などと主張。ターバンを巻いた男性がコーランを弁護してみせたが、灯油をかけて燃やすとの「判決」が下された。
この教会のテリー・ジョーンズ牧師は昨年も、米同時多発テロが起きた9月11日に合わせてコーランを焼く計画を公表し、国際的な批判を浴びた。その際は、アフガニスタン駐留米軍のペトレイアス司令官らが計画中止を呼びかけたのに応じ、矛を収めていた。
だが今回、ついにコーランを焼却したことの波紋が広がり、実際に人命が失われる事件に発展した。ジョーンズ牧師はAFP通信に対し、アフガニスタンでの襲撃について「衝撃を受けた」としながらも、「責任があるとは感じない。行いも変えない」などと語った。【4月2日 朝日】
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昨年は、コーラン焼却予告に対する抗議行動が世界各地のイスラム国に広がり、アメリカ国内でも“イスラム国の民衆を刺激する行為は、イラク・アフガニスタンの米軍兵士を危険にさらす”として批判が高まり、結局中止されました。
今回は、事前の報道には気づきませんでした。
ジョーンズ牧師側が秘密裏に事を進めたのか、ジョーンズ牧師側に乗せられる形で騒ぎが広がることを警戒してメディア側が報道を自粛したのかはわかりません。
【アフガニスタン・カルザイ政権の矛盾】
アフガニスタンで騒ぎが激化したことに関しては、“政権基盤が弱体化するカルザイ大統領は、欧米批判で求心力の維持を図ってきた。先月24日には声明を出し、それまでアフガンではあまり知られていなかったコーラン事件を強く批判するとともに、米当局に関係者の処罰を求めた。デモが起きる背景につながった可能性がある。” 【4月2日 朝日】とも報じられています。
いずれにしても、宗教対立を煽るジョーンズ牧師の狂信的行為には憤懣やるかたないものを感じます。
今回は多数の死者まで出す結果となっており、“お騒がせ”ではすみませんが、本人は正しいことをしていると思っているようですので始末に負えません。こうした暴挙を行う自由も認めないといけない社会というのも納得し難いものがあります。
欧米軍事力で支えられていながら、欧米批判で求心力を保とうとするカルザイ政権の対応も、アフガニスタンの混乱・矛盾を象徴するものに思われます。
こういう事件を見ると、アフガニスタンの安定化などはとても無理なような気もしてきます。