原左都子エッセイ集

時事等の社会問題から何気ない日常の出来事まで幅広くテーマを取り上げ、自己のオピニオンを綴り公開します。

日本に「ハブ空港」が必要か?

2009年10月14日 | 時事論評
 国民が一読一見して理解しにくい“新カタカナ混在語”を政府が率先して公然と使用して日本語を乱し続けることはもう勘弁して欲しい、とまず思ったのがこのニュースを見聞した私の第一印象である。

 先日から話題になっている「ハブ空港」であるが、皆さんはこの言葉の正確な意味をご存知であろうか。
 参考のためにここで解説すると、「自転車の車輪の軸(ハブ)からタイヤに向かってスポークが延びるように、世界各地への航路と、周辺地域への路線の中継地点となるような空港のこと。 発着が盛んになるため着陸料の増収が期待できたり、周辺での物流産業の活発化や国際会議などの招致にもつながり、地域や国の経済活動にプラスに働くとされる。」とのことである。(以上、朝日新聞記事より引用)
 ならば「国際拠点空港」とでも和訳すれば済むし、その方が国民にわかりやすいのではないのか?


 八ッ場ダム問題に引き続き、今度は「ハブ空港」問題でまたもや地方自治体の反発を煽って物議を醸しているのは、新政権の国土交通大臣であられる前原氏である。
 前原氏は昨日(10月13日)の閣議後の会見において、羽田空港を24時間使える国際的なハブ空港にしていく方針を明らかにした。 今まで国際線は成田空港、国内線は羽田空港を中心にしてきた「内際分離」の原則を転換し、来年10月の羽田拡張を機に、アジアの有力空港と競争できる体制づくりを目指すとのことである。(朝日新聞13日夕刊トップ記事より引用)

 (引き続き朝日新聞同記事よりの引用であるが)前原氏は、韓国の仁川空港に日本のハブ空港の機能を取られてしまっていることを問題視した上で、「日本にハブ空港を作らなくてはならない。ハブになり得るのは、まず羽田だ」として、「羽田の24時間国際空港化を目指して行きたい」と会見で述べた。
 羽田は成田よりも都心に近く、ビジネス客を中心に内外からの利用増を見込める。ただ、成田には激しい建設闘争を押し切って開港した経緯もあり、今まで国交省は羽田の国際化に慎重な姿勢をとってきている。 これに対して前原氏は「成田から羽田に便を移すものではなく成田も使っていくし、大阪の3空港に関しても羽田のハブ化の筋道をつけた後で、その役割分担も含めて検討する」としている。
 これに対して、大阪の橋下知事は「関空がハブ空港でなければ府としてお金をつぎこむ必要はないため、府民の生活に金を振り向ける」と表明している。
 一方で、成田市長はじめ成田地元市民の間では「地元の意見を聞かずに決めるのは八ッ場ダムと同じ構図だ」との困惑が広がっている。成田空港は今月下旬、延伸されたB滑走路の供用がやっと始まり、国際空港らしい体裁が整ったその矢先に冷水を浴びせられた形だ。 長く激しい空港建設闘争による地域分断の苦しみを味わいつつ、苦渋の決断として空港建設を受け入れてきた歴史を考慮していない、とする成田空港対策協議会の批判もある。(以上、朝日新聞記事より要約引用)


 今日昼間のNHKニュースを見聞していると、「ハブ空港」に関する短時間の報道の中に、前原氏の「千葉県の森田知事は勘違いしている。私は何も成田空港を潰すとは言っておらず羽田と共存させるつもりだ」云々とのコメントがあった。 このコメントは一般市民である私が見聞しても、千葉県知事である森田氏を“バカ”と侮ったように受け取れる発言であり、その真意はともかくも国交省の大臣たる立場での発言としては国民の誤解を生むだけである。

 前原氏が如何なる対処をしようとも、羽田ハブ空港化により成田空港が大打撃を受けることは素人目にも明確な事実であろう。
 加えて、あの激しい成田空港建設闘争の歴史を慮っただけでも、地元の皆さんの苦渋の歴史はこの私にも痛いほど理解できる。 それを、新与党のマニフェストに掲げられている政策だからと言って、大臣が一言で一蹴して済むはずもない。


 新連立与党は夏の終わりに政権を取って以降、短期間の内になぜこのような同じ過ちを何度も繰り返すのか?
 “マニフェスト先にありき”の我が身息災な考え方を今一度冷静に再考できないものなのか? こんな失策を繰り返してばかりいるのでは、やはり来年の参議院選挙に向けて“票取り”に焦っているとしか選挙民である庶民には捉えられないのではなかろうか。
 今回の「ハブ空港」問題とて、苦渋の歴史を積んで来ている成田地域住民への配慮こそが真っ先に行われるべきだったであろうに…。

 しかも、今回の場合、羽田24時間国際空港体制における新たな騒音等の公害問題も発生する。(これに関しては既に千葉市長よりその旨提言されているのだが。)
 
 日本には“根回し”などという良きにつけ悪しきにつけ独特な文化もある。 新政権が自らのマニフェストをどうしても成就したいのであれば、(あくまでも権力や金力がからまない範囲ならば)この“根回し”手段とて指導者としての一つの力量、手腕として利用できるであろうに、と言いたくもなる。 一般庶民にそんな発想さえ抱かせる程、今の国交省(をはじめ各省庁の)各方面の政策決定発表は唐突で“素人もどき”で見ていられないのだ。


 あっ、最後に本記事の表題に戻るが、環境面からそして経済効果からも今の日本の現状を考察した場合、前原氏がおっしゃるほど今の日本に「ハブ空港」が必要とも思えない原左都子でもあるのだが…。
 アジアの発展という国際外交関係の観点からも、新政権はもっと大らかな心でお隣の韓国やシンガポールにその役割をお任せしておいてはいかがなものなのか??
              
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航空貨物激減 (issei)
2009-10-15 00:11:28
日本にはハブ空港がありません。
その為か航空貨物が激減、貨物機は寝かせている状況です。最も、日本の空港が敬遠される理由はもう一つあります。着陸料がとてつもなく高いのです。ジャンボ機が1回下りると70万円とか言われます。これでは航空会社が韓国に着陸させてしまうのも無理が無いです。従ってハブ空港化して着陸料金を安くして物の流れをわが国中心にする事によって、経済を活性化することを狙っていると思います。羽田での着陸は海からのアプローチなので真夜中の運用も可能であり、滑走路も4本になれば、世界に誇れるハブ空港としての機能が満たされます。閉塞した経済を打開する為にも必要かなと思っています。
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確かに・・・ (ドカドン)
2009-10-15 02:36:01
目立ちますね!民主党の考え方の失敗・・・。
どうも色々、先走ってみたり、地元意見を聞かなかったりです。
個人的には、「鈍感力」で、民主党のやる事を見ているのですが、毎日の様にテレビに出てきます。
ハブ空港は、無くてもいい。
地方の空港も見直した方がいいし、JAL問題も早く決着をつけた方がいい。
「親方日の丸」のJALは、旧国鉄の様なところです。
これを調べるとホコリが出てきそうです。
年金、新空港建設のためのプール制、不明朗な会計処理等・・・。
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でも (はるちゃん)
2009-10-16 15:03:49
羽田は近くて便利です。成田は遠いし、国内線にも新幹線にもつながってなくて不便です。この夏、仁川空港を体験したものとして、日本が再び力をつける国になるためには、ハブ空港は必要だと思います。いちいち根回しやお伺いをしていたら何も進まない。私は前原大臣はスカッと小気味良いです。確かに成田の反対闘争は激しかったけれど、どうせ利権の絡んだゴリ押しだったのでしょう?羽田の国際線は地方空港かと思うぐらい小さく寂しいものなので、あそこが充実したら嬉しいと思う人は多いと思いますよ。
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isseiさんは確か羽田空港へお勤めでしたよね?? (原左都子)
2009-10-17 08:01:46
「専門家」の立場からのご意見をありがとうございます。

でも、私が南の故郷から航空便で帰省する時、必ず房総半島まで遠回りして上空を旋回した後羽田空港へ着陸している記憶があります。 離陸する時は海側へ飛び立って、東京上空は一切飛ばないですね。 これは千葉が東京より人口が少ないため、よもやの墜落の場合被害が少ない等の安全対策からわざわざ房総半島へ遠回りしているのか、などと勝手に考えているのですが…
それが正しいとすると、羽田が24時間体制になった時の千葉市長の懸念も大いに理解できます。

とにかく、羽田を「ハブ空港」化することにより、成田のみならず新たな軋轢が生じることは間違いないでしょう。
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ドカドンさん、新与党はただただ焦っていると言うのか… (原左都子)
2009-10-17 08:53:35
とにもかくにも、民主党は来年の参議院選挙の票取りに躍起ですね。
“マニフェスト先にありき”で国民の顔色ばかり伺っている割には、片方で大した票にはなりそうもない少数弱者国民は最初から切捨て作戦(八ッ場にしても、子どもと関係のない扶養控除切捨てにしても)のため、それがあだとなって叩かれて尚、まだ“マニフェスト”にしがみついているといった有り様ですね。

まったく親方日の丸のJALも困り者ですねえ~。
あれにまた膨大な財源を投入して救う手立ての前原氏の考えのようですが、いっそぶっ潰してしまえばいいのに、なんて私も思ったりもします。
航空業界への新規参入は困難なようですが、大手企業が育って自由競争化して、親方日の丸の放漫経営が早く過去の話になって欲しいものです。
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はるちゃん先生、何分“”あまのじゃく”の私なもので… (原左都子)
2009-10-17 09:15:48
“右に倣え”と言われると「左」を向きたい原“左”都子で申し訳ありません。

今回、民主党がその実力の程が不明であるにもかかわらず私の予想をはるかに超えて“圧勝”してしまったことと、その当選者の実態と言えば“訳のわからん”新人議員が大多数で、その(単なる数集めで)役に立ちもしない新人議員が手中にする3500万円の年収を考えると、「この財源の無駄使いは捨て置けん!」と世論に反して憤慨し続ている私です。(国会議員の不当利得とも言えるこの歳費特権も、新与党は早急に見直して欲しいものです。)

前原さんにしても他の閣僚にしても、確かに真面目に執務に励んでいる様子は伝わります。ただ、来年の参院選の票取りに向けての焦りは隠せないし、そのために余裕がないですね。国民のリーダーたるもの、真面目なだけでなく、加えて人間味が欲しいものです。そのためには、「根回し」というと語弊がありますが、リーダーシップには見えない部分で細やかな微調整や配慮が欠かせないと私は考えます。そういう意味で、新政権は“素人もどき”との印象があるのです。
まあ、何と言ってもまだ新政権は立ち上がったばかりでよちよち歩きの状態ですから、今後の指導力の程に期待したいものですし、その評価が可能となるのはまだまだ先のことでしょう。

「ハブ空港」に関しましては、私論は本文中に記しました通りです。
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根が深い問題提起 (空 乏層)
2009-10-17 14:48:29
マサチューセッツにいたとき、某航空貨物会社から相談を受けたことがあります。極東地域のネットワーク・ハブをどこにするかとのことでした。インチョン空港のサービス開始前、成田はIsseiさんご指摘のとおり、フライト・ネットワークの外国参入会社にとって、その使用料やその他の障壁がきつすぎるため、敬遠される運命にあったことは事実です。
一般の国際航空路線のヘテロジニアスなネットワークの場合、一国に複数のハブは絶対条件ですが、先の某航空貨物会社の場合は他社とのアライアンス無しの自社ネットワーク、つまり、ホモジニアス・ネットワークだった為、一国に一つのハブで十分だった訳です。しかし、扱う貨物量(市場規模)からして、極東が一つの国と等価となり、その”拠点”として、先の理由により、インチョン空港を極東のハブ化とすべきと推薦したことを覚えています。
ハブとはNetwork Hubのことを言いますが、この様な訳の分からぬ斬新な言葉を頻繁に使って、さも持論が正論の様に見せる、市場開拓者たちの巧妙な手口です。特に、島国日本にとって、カタカナ外国語には洗脳されやすいので、かれらの使う言葉には原さんのご指摘通り、その人なりの洞察と解釈が必要です。
前原氏は戦略家であって、職分として当該省の大臣の器ではありません。ベテラン財務大臣が言う様に、大臣は査定と鑑定評価(予・実算管理)が主たる仕事であって、国家戦略が主たる仕事ではありません。したがって、前原氏の言動はまず結論ありきの言葉による国民の先導が目立って当然です。議会制民主主義革命の前衛、プロパガンダ大臣なのです。かかる意味では、鳩山政権の登用ミス、あるいは、人材不足の結果ではないでしょうか、・・・。道路も航空路も海路も国の重要なネットワーク・インフラですから、そのハブ建設における戦略は国の生き死にを決定します。一刻もはやく、大臣などという職分から彼を解いてやり、戦略部門の責任者に抜擢すべきであると、彼の持論が正論だけに私めは思っています。ちょっといい過ぎかな?
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空 乏層さん、前原氏は“戦略家”なのですね。 (原左都子)
2009-10-18 16:59:58
空 乏層さん、いつもながら専門性の高いコメントを頂戴し、原左都子エッセイ集を裏から“格調高く”支えて頂きまして心より感謝申し上げております。

前原氏とは俗な表現をしますと、一見クールな“いい男”でもあり、加えてあの類稀な頭脳明晰さは女の目には魅力的に映ります。
ところが一方で、前原氏とは表情の起伏に乏しく決して“笑わない”人物ですね。 
朝日新聞の天声人語も、前原氏を「秀才は2点間の最短距離を探すのがうまい。だが、それが正しいとも限るまい。連綿たるアナログである人の営みに、デジタル的に対処したがる傾きはないか。ときに定規を手放した方が、政治という“可能性の芸術”を描きやすいこともあろう。」と評していましたが、天声人語欄をあまり好まない私もこの見解には同感です。

空さんがおっしゃるように、前原氏は戦略家として特化できるべく部門への登用をするべきだったのでしょうが、何分、若手の実力派が他に存在しない民主党において、大臣という表部門に配置せざるを得なかったようにも思います。

「ハブ空港」に関しましては何分勉強不足の私ですので、今後前原氏の動向を観察しつつ私論を打ち立てて行きたいと考えております。
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