原左都子エッセイ集

時事等の社会問題から何気ない日常の出来事まで幅広くテーマを取り上げ、自己のオピニオンを綴り公開します。

アール・デコの空間にも秋風がそよぎ…

2011年11月03日 | 芸術
 (写真は、10月末頃に撮影した 東京都庭園美術館 の室内  ルネ・ラリック氏による正面玄関のガラス・レリーフ扉)


 10月も終わりにさしかかった穏やかに晴れ渡るある日、私は東京都港区白金台に佇む東京都庭園美術館を訪れた。
 メトロ南北線白金台を降り立ったその一帯は都心であるにもかかわらず緑豊かな広大な公園に恵まれた地域であり、また1933年に建てられた旧朝香宮邸である上記美術館が位置する歴史と共に、その周辺には美智子皇后がご卒業された聖心女子大学をはじめとして欧風のレストランや店舗が立ち並ぶ閑静でお洒落な街並みが続く。


 私がこの東京都庭園美術館(当時は 旧朝香宮邸 との名称であったかもしれない)を最初に訪れたのは、今から遡る事20年余り前のことである。
 当時独身の身で学業に仕事にと多忙な日々を送っていた私を、この旧朝香宮邸に誘(いざな)ってくれた男性がいた。 その男性とは現在新聞紙上等において論説を展開する等の活躍をしている学者であられるのだが、当時より多方面に博学多識の人物だった。 30代にして果敢にも新たな学問に励む私の生き様が「面白い!」と大いに評価してくれ、たまに会っては喧々諤々と語り合う同輩であった。

 ある時、その人物が上記の 旧朝香宮邸 へ行きましょう、と言う。 その頃の私は自己実現意欲に燃え時間を惜しんで日夜諸活動に東奔西走していた反面、芸術鑑賞をしようなどと欲するゆとりは一切持ち合わせていなかったのが正直なところである。
 そもそも「アール・デコ」の言葉は知れどもそれが一体如何なる芸術かさえ心得ず、とにかく誘われるまま旧朝香邸に向かった。 (今思い返すにこの人物は私を世田谷美術館にも誘ってくれたが、こちらの美術館では一体何の展示をしていたかの記憶すらない。

 この旧朝香邸に於ける「アール・デコ」芸術が、それに関して無知だった私にとっても素晴らしく輝いて映ったのである。  こういう芸術ならば喜んで鑑賞したいと素人ながら唸ったものだ。
 当時は館内にカフェのような施設もあったであろうか?(私の記憶違いであればお詫びするが)  そこでこの男性といつものように語り合ったような記憶もあるのだが、とにかく展示されている美術作品を単に観て回るお決まりの芸術観賞ではなく、アール・デコの館に息づいていた人々の生活を自ら再現できるがごとくの感動があったものだ。


 時を経た今、私が何故に「アール・デコの館」である現東京都庭園美術館へ出向くことを意図したのかというと、実は当該美術館は2011年11月1日より改修工事により全面休館するとの情報を得たためである。(既に休館中です…。)
 いつまで休館するかの情報は得られないのだが、そういう情報を耳にすると「今のうちに見ておこう!」と欲するのが庶民の野次馬根性というものであろう。

 そしてこの原左都子も(あの頃の感動を再び!の思いで)、10月末に東京都庭園美術館へ出かけることに相成ったのである。  
 ところがあらかじめメディア報道で得ていた通り、現地に着くと改装前の旧朝香宮邸を一目見ようとの鑑賞者でごった返している始末だ。 
 現在美術館として公開されている旧朝香宮邸は3階まで展示場があるのだが、多数の鑑賞者の中、特にお年寄り達は足が不自由な状態で3階まで階段を登るのもままならない様子である。

 そんなこんなで今回はアールデコ芸術を観賞してきたと言うよりも、鑑賞者であるお年寄りの足腰が不自由な現実を近い将来の我が身に置き換え、年老いて芸術鑑賞をする際に周囲に迷惑にならないように如何なる心得をするべきか、との現実を学んできたとも言えるのだ。


 ここで、皇族の一波が「アール・デコ館」を住まいとしていた歴史に関して少し解説しておこう。
 アール・デコとは、1925年にフランス・パリに於いて開催された美術博覧会の略称を由来する名称であるそうだ。 (そのアール・デコの芸術家として今尚世界に名を轟かせているのが冒頭の写真の ルネ・ラリック氏 ではなかろうか。)
 皇族の子孫である朝香宮家が何故この白金台の地にアール・デコの館を建てるに至ったのかについて原左都子なりの解説をするならば、ここに1947年まで実際住んでいたという朝香宮家の先祖である皇室の子孫が1922年当時にフランスに留学したからとのことのようだ。 そして、その頃のフランスはアール・デコの全盛期であったそうだ。
 そのフランスの地で(なんと!)皇子が交通事故に遭ったが故にその治療のため長期フランスに滞在することを余儀なくされたらしい。 事故に遭った当該者である朝香宮氏とフランスに於いてその看病に明け暮れた妃殿下の苦痛を慮って、帰国後に白金台の地にこの建物を建てたとのことでる。 
(以上は、東京都庭園美術館が発行しているパンフレットを要約したものである。)


 ところで本日(11月3日)、皇族秋篠宮家のご長男が5歳の儀式に望まれたとのニュースを見聞した私である。
 皇室に於ける皇位継承制度が今後どう変遷するのかに関しては国民の大いなる関心事であろう。
 それにしても明治以前の時代に比して現在は我が国の皇室に関する法制度も進化せんとの様子であるし、今後益々そうあるべきだとも思うのは国民皆の正直な感情なのではなかろうか??

 東京白金台の旧朝香宮邸もこの11月1日より改修工事に入ったとのことだが、芸術的に優れたこの「アール・デコの館」が近い将来新装オープンした暁には、益々庶民が集える場と変貌していることに期待したいものである。
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