原左都子エッセイ集

時事等の社会問題から何気ない日常の出来事まで幅広くテーマを取り上げ、自己のオピニオンを綴り公開します。

破産されては困る店

2010年04月01日 | 時事論評
 ローカル色の濃い話題で恐縮なのだが、東京池袋東口駅近くで約60年に渡って営業を続けてきた「キンカ堂」が、2月22日に自己破産を申請して閉店した。


 この「キンカ堂」とは、その名目は布地や手芸用品の販売を主たる営業目的としている大手手芸用品店であったのだが、取り扱っている商品はデパート並みの種類の多さだった。 衣類、靴、鞄、アクセサリー、化粧品、下着、子供服、日用品、呉服関係、等々…  そのそれぞれにおいて専門小売店よりも品数が豊富であったし、もしかしたら今時不況の影響で品数を減らしつつある百貨店よりも商品展開が豊かであったとも考察できるのである。

 そして何と言っても「キンカ堂」の最大の特徴は、商品価格が安価なことであった。
 その安価な価格を支えていたのは、今の時代に迎合する意図の“リニューアル”などものともしない建物の古さや昔ながらの店構えの旧態依然とした雰囲気、そしてディスプレイの粗雑さ等々…  外見的な体裁には一切こだわらずに営業を続けていたことにあると私は捉える。
 ゆえに、そういった外見的要因の“みすぼらしさ(失礼!)”に惑わされることなく、自己が欲する商品選択が可能な“真の意味で洗練された”消費者にとっては、このお店は十分にお得で重宝する存在だったのである! 


 私は、この「キンカ堂」には現在の住居へ転居した時から数年来お世話になっている。
 当時小学生だった我が子が通う公立学校の家庭科や図工の教材を買い求めるのに「キンカ堂」がダントツに割安との情報を得て、何度か訪れて布地等の教材を購入したことがある。
 それに加えて、「キンカ堂」は私の行きつけの美容院へ通うターミナル駅の地下道から路上に抜ける近道ルートにちょうど位置しているのだ。 そこで、月に一度程の頻度で「キンカ堂」の店内経由で美容院へ通っていたという訳である。 その道中に、お手頃価格の常時何割引きかの化粧品やアクセサリーや下着を買って帰ることがいつもの習慣でもあった。

 昨日、美容院へ行くためにいつものようにこのルートで「キンカ堂」を通過しようとしたところ、珍しくもシャッターが閉ざされている。  滅多に休業しない「キンカ堂」にして今日は臨時休業でもしているのだろうかと思いながらも、今の不況のご時勢故の嫌な予感が私の頭を過ぎりつつ遠回りルートで表玄関に回ってみると、案の上“閉店”していたのだ!
 
 ところが何と、もっと驚いたのは「キンカ堂」の表玄関に降ろされているシャッターに、閉店を惜しむ顧客が残したメッセージの張り紙がシャッターいっぱいに張り巡らされていたことである。

 昨日帰宅後、この張り紙の真意を朝日新聞の記事で理解した私である。
 朝日新聞3月28日(日)朝刊に、この「キンカ堂」閉店にまつわる記事を発見したのだ。 「キンカ堂」の閉店を惜しみ再開を願う顧客が表玄関シャッターにその思いを伝えるべく次々と張り紙をしているとのことである。 やはり、「キンカ堂」の閉店は多くの人々に感慨深い余韻をもたらしている様子であるのだ。


 バブル崩壊後の長引く不況の中、さらなる追い討ちをかけた一昨年の世界的経済崩壊の大いなる影響を受け、破産する企業や店舗は大手中小の如何にかかわらず後を絶たない厳しい商業経済界の現状であろう。
 財閥等昔ながらの大資本力に支えられ長年に渡り燦然と存在し続けてきた老舗大手百貨店ですら破産を余儀なくされたり、店舗閉鎖や縮小の大打撃を受けている今の時代において、 一個人経営に徹してきた「キンカ堂」が大東京のターミナル駅前で60年にも及ぶ長い年月に渡り営業を続行できた実績は大いに評価されるべきであろう。
 “かくれ「キンカ堂」ファン”であるこの私とて、表玄関のシャッターに張り紙をして経営再開を望みたい思いである。


 ただし、もしも今後「キンカ堂」に自己破産再生可能な更正法が適用されて何処から資金力を得てたとしても、私は“陳腐”なリニューアルオープンなど一切望まない。
 今流行っている一見新しい風で実は“陳腐”な経営理念を展開することにより、新たな顧客を取り込もうとして実態のない顧客に下手に迎合しようとも“バブル”の再現を繰り返すだけの虚しさの予感が私には漂ってしまうのだ。

 この激動の時代において個人経営の「キンカ堂」が60年の長きに渡って「キンカ堂」として存続し続けられたのは、旧来の「キンカ堂」らしくあり続けたからではないのか??
 原左都子はそういうポリシーを好んでいるし、私自身がその意味において永遠の存在でありたいとも思っているぞ。 
        (所詮、無理だとしてもね~~) 
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