原左都子エッセイ集

時事等の社会問題から何気ない日常の出来事まで幅広くテーマを取り上げ、自己のオピニオンを綴り公開します。

博士の行く末

2009年01月23日 | 仕事・就職
 朝日新聞1月18日付朝刊「あしたを考える」のページの '新学歴社会' の今回の記事は“就職漂流 博士の末は”と題して、博士の学位取得者の就職難について取り上げていた。

 「修士」はともかく、「博士」の学位を取得すると就職の受け皿がないという話をよく耳にする近頃であるが、この記事を読むと、博士の方々の就職難の実態が気の毒にさえ思えてくる。


 それでは、早速この朝日新聞の記事を以下に要約してみよう。

 塾の講師、図書館の棚卸し、学校の警備員…、いったいいくつの職業を経験しただろうか。10年余り、年収100万~150万で暮らした。大学の教員には100回以上応募したが、なしのつぶて…、と嘆く博士取得者。 大学教員の公募に何度応募しても採用されず、非常勤講師を4大学で掛け持ちして年収140万、という博士もいる。研究者への道は狭き門で、年齢的に企業への就職も難しく、退くことも進むこともできないでいる博士号取得者は多い。
 学歴社会の頂点であるはずの「博士」のその後は明るくない。就職率は約6割に過ぎず、非常勤講師等の不安定な立場にある人の割合が大きく、フリーターをする博士の比率も高い現状のようだ。

 朝日新聞記事の要約が続くが、かつては「末は博士か大臣か」と並び称された博士が、なぜこのような実態になったのか。
 最大の理由は、国が企業等多方面で活躍できる高い専門知識・能力を備えた人材を育てる目的で、91年から10年間かけて大学院生を倍増化する計画を推進し、「入り口」で博士の数を増やしたためである。 
 ところが、「出口」の就職先が広がらない。期待されていた企業への就職者数も予想に反して受け皿が狭い。「専門能力は高いが、他の分野の知識や能力が不足している人材が多い」というのが企業の言い分であるようだ。 また、採用しても待遇面で博士を優遇しない企業も多いのが実態でもあるようだ。
 文科省も多少はこの失策の責任を認め、ミスマッチ解消に乗り出しているらしい。「企業は博士が要らないから採用しないのではなく、(大学側が)博士の中身を変えるべきだ」と某国立大学学長は話す。
 対応策として、博士を「増産」してきた政策そのものの転換を求める声が出てきている。「博士は今の半分でいい。国が戦略を立てて分野を選んで減らせば、国力の低下につながらない」と主張する有識者がいる。 一方で、ノーベル物理学賞受賞者の野依良治氏は「グローバルな知識基盤社会に日本が生き残るためには、十分な質を持つ博士が今以上に必要だ」と反論している。

 現在の日本の「博士」数は国際的にみれば圧倒的に少ない。「就職できない人がいるから減らすというのは、間違った考えだ」と言い切る有識者もいる。「人材育成能力に欠けている大学に最大の責任があり、大学が変わるべき。それができないならば博士を減らすしかない。大学の意識改革が問われている」
 との某国立大学教授の見解で、この朝日新聞の記事は締めくくられている。


 私事で恐縮だが、我が家にも「博士」が1名いる。そのため、私はこの朝日新聞記事を興味深く読んだ訳である。
 我が家の博士は“理学博士”なのであるが、自分自身の研究者としての意思と希望を優先するために、やはり“真っ当な”就職までには難儀した人物であるらしい。(“らしい”と表現するのは、私はこの人物が親掛かりを離れて自力での生活が安定して以降に知り合っているためである。) 我が家の博士の場合、学位取得後、理系の博士に多い“ポスドク”(ポストドクター = 任期付きの博士研究員)を2大学に於いて経験している。その間に科学誌“ネイチャー”に研究論文を発表した後、30歳代半ばになってやっと日本の某企業の研究所に就職を決めたとのことである。
 それでも、我が家の「博士」の場合はその頃の時代背景にも助けられ、遅ればせながらも就職先にありつけて、その後は一応安定収入を得つつ現在に至っているため、まだしも恵まれている方なのであろう。


 さて、本論に戻ろう。

 「博士」の“数”だけ増やせばいいと安易に考えた文科省の政策は、やはり失策だったのではなかろうか。そして、その責任を教育現場の大学になすりつけて済むと言う話でもないであろう。 今後は大学の意識改革の下に、研究分野の専門能力のみならず、この厳しい経済社会で真に活躍できる総合的な能力をも兼ね備えた人材の育成に取り組んで欲しいものである。

 そして、「博士」等の学位取得を目指そうとする人々やその保護者の皆様にも提言申し上げたいのだが、学位を取ればどうにかなる時代など、とうの昔に終焉している。どのような分野であれ、確かな実力があってこそ渡っていける世の中である。それを肝に銘じて精進していただきたいものでもある。 
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