認知症の妻を介護している90代の夫に「介護サービスを使ったらどうですか」と、お勧めしたところ、「それは何ですか」という返事。「介護の負担軽減のためのサービスです。介護サービスの計画は無料で作ってもらえますよ」と話しましたら、「そんな、タダでしてもらうようなことは信用できん!」となりました。介護保険制度が2000(平成12)年からスタートして13年たちますが、いまだに高齢者の中には、介護保険のことを十分理解していない方がいます。
全国人権擁護委員連合会の機関誌「人権のひろば」11月号に掲載された山本克司・聖カタリナ大学教授の講演録です。山本さんが国家公務員等研修会で「高齢者の人権」のテーマで話した内容の要約です。
介護保険制度が始まって13年もたつというのに、介護サービスについて知らない高齢者は少なくありません。患者さんの中にも当然、介護サービスを受けられるのに知らない方がおられ、その方法を伝えた方が何人もおられます。パソコンやスマートフォンを所持しておらず、ネット検索はしたことがない「ネット難民」といわれる人たちでした。
ところが、ネットに精通している人にも介護サービスについて知らない方がいて、びっくりしました。NHKテレビで放映された「認知症800万人時代 母と息子 3000日の介護記録」の映像を撮った元NHKディレクターの相田洋(ゆたか)さん(77)です。相田さんは2002年から8年間、お母さんの自宅に夫婦で転居し、認知症を発症した母を100歳で亡くなるまで介護しました。
食事の世話からトイレの始末、入浴まで夫婦二人で行いました。番組の中で、映像を見ながら専門家の立場から助言をしていた医師、介護福祉士らから「どうして介護サービスを受けなかったのですか」と叫び声が上がりました。相田さんは「知らなかったのです」と正直に答えました。専門家から「一般の人たちならともかく、情報に詳しいマスメディアの方も知らなかったのですか」と驚いていました。
日本のあらゆる制度は「申請主義」です。役所に諸手続きをしなければ、正当な処遇を受けられないのです。ネットが広がるほど、この傾向は強くなることでしょう。「自己責任」「自己管理」の声が高まるたびに「行政の責任放棄」を感じるのは、私だけでしょうか。
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