医学の父と呼ばれる古代ギリシャの医師ヒポクラテスの治療の考え方に「重病に打ち負かされている場合、医療の無力さを知っているゆえに何もしない」があることを知りました。
午前4時前に目覚め、NHKのラジオ深夜便の「あすへの言葉」で、往診医の小堀鴎一郎さん(77)の「心に響く医療の道を求めて」を聞いて、教えられました。小堀さんは作家の森鴎外の孫で、東京大附属病院、国立国際医療研究センターで上部消化管を専門とする外科医を勤めました。65歳で定年退職したあと、埼玉県の病院で往診医として500人の訪問診療し、半数の臨終にかかわったといいます。
小堀さんが「何もしない」を痛切に感じた患者さんがおりました。98歳の女性は食事が摂れなくなり、ペットボトルの清涼飲料水を飲むのがやっとという状態になりました。延命治療をする必要がないことを伝え、家族もこれを了承しました。ところが、女性の息を吐くときのかすかな音を聞いた家族が入院を強く希望しました。
病院の医師たちは、延命させることを最大の治療と考えています。高カロリー液をのどを切開して注入して、女性は10か月間、意識不明のまま病棟で生き続けました。延命をあれだけ強く要望した家族も見舞いに訪れることがなくなり、女性は家族にも看取られることなく一人で亡くなりました。
「これこそ孤独死ではないでしょうか」と小堀さんは言います。重病に打ち負かされている場合というのは「現在では老衰と末期がんです。治すことができない以上、何もしないという治療もあるのです」と小堀さんは考えます。
私は「延命治療はしないよう」エンディングノートに書いているうえ、家族にも伝えています。ちなみに、ヒポクラテスの治療の考え方は三項目あり、その他は①患者の苦痛を完全に取り除く②病気の暴力を減少させる、です。