ノーベル医学生理学賞を受けた大隅良典・東京工業大栄誉教授は、酵母のオートファジー(自食作用)の機構を説明する前に「血液の赤血球は1秒間にどれくらいつくられるか、知っていますか」と聴衆に呼びかけました。答えは、3×10の6乗、300万個です。続いて「酸素を運ぶヘモグロビンは1秒間に1×10の15乗、1000兆個もつくられています」。
ヒトの体を構成する細胞の寿命は数分から数か月といいます。2~3ヶ月で置き換わってしまうそうです。新しくつくられる一方で、古くなって役に立たなくなった細胞は次々と分解されていきます。オートファジーは細胞内のタンパク質を分解する仕組みを明らかにしました。
こうした代謝を繰り返し、ヒトの生命は生き続けています。ヒトの体の仕組みを知れば知るほど、私は生命の神秘さを感じます。解剖学の授業で、赤ちゃんの血液循環を習ったときにも、その神秘さにびっくりしました。
胎児は、お母さんの、いわゆるへその緒から血液を受け、栄養分と酸素を補給しています。赤ちゃんの心臓は動いていませんから、血液は心臓の右心房から左心房につながる卵円孔を通じ、左心房、左心室に入ります。出産して、赤ちゃんが肺呼吸を始めると、卵円孔は血圧で閉じて卵円窩となります。オギャーと泣いたとき、卵円孔はふさがり、右心房→右心室→肺→左心房→左心室の血液循環が始まるのです。
赤ちゃんの頭蓋骨は縫合が緩やかです。狭い産道を通り抜けるためです。それが、誕生時には縫合は正常通りに広がります。この仕組みにも驚きました。ヒトの体を学べば学ぶほど、信仰心の乏しい私でも、神さまがつくったとしか、思えません。
奇跡の正に奇跡の命であり、4か月ですべての細胞が生まれ変わって置き換わっているなんて本当にすごいと感謝するばかりです。