翻訳家の田口俊樹さんは「経験でしかものを言えなくなる人生は寂しい」と書いています。朝日新聞の折々のことばに載っていました。
読書の知識を自らの体験に上乗せすれば、確かに人生は豊かになることでしょう。私も長年読書を友にしてきましたから、その考えは理解できます。
でも「経験でしかものを言えないことを寂しい人生」といわれることには素直にうなずけません。私の患者さんの多くが大阪のおばあちゃんです。大阪のおばあちゃんのたくましさは経験したことを繰り返し話してもいっこうに気にしないことです。
「先生、Fさんの同じ話を何回も聞かされて、よく黙って聞いていますね」とFさんと同じ80代のWさんに言われました。そういうWさんの同じ体験話を何回聞いたことでしょう。
田口さんの言葉を聞いたら、フーテンのトラさんだったら「さしずめインテリの悩みというやつだな」ということでしょう。
昔なら「○○さんの十八番話がまた始まった」と聞き流していたものです。第一「寂しい人生」かどうかは本人が受け止めるもので、人生を充実するためには何をしなければならないかは本人が考えることでしょう。知らんけど。