今から30年ほど前のこと、高度成長期は終わったものの、右肩上がりに時代は続いていたときの話です。京都商工会議所会頭の塚本幸一・ワコール社長は、野中広務・元京都府副知事に連れられて、東京・目白台の田中角栄邸を訪ねました。野中さん(その後、衆議院議員になり、内閣官房長官、自民党幹事長などを歴任)と旧知の田中元首相に、塚本社長は、琵琶湖畔にある飛行場敷地の売却に力を貸してほしい、と要請しました。塚本社長らが出資して、琵琶湖につくった水上機の航空会社が倒産したのです。土地を売却しようと心あたりにあたったのですが、購入先がありませんでした。
田中元首相は「水資源開発公団に買わせればいいじゃないか」と即座に言って、竹下登事務所に電話しました。この結果、出資した約3億円の7割ほど、約2億1000万円は回収できたといいます。
ジャーナリストの魚住昭さんの「野中広務 差別と権力」(講談社)に書かれていた一節です。驚きました。こうやって権力を手中にした政治家は経済人に恩を売っていたのです。水資源開発公団(現在の独立行政法人水資源機構)の購入資金は政府交付金や国庫補助金などであり、元をたどれば税金です。これで水資源開発公団の最高幹部は次の天下り先を確保されるのです。
この取引にかかわる人たちはすべて利益を受けるわけですから、この種の話は滅多に表に出ることはありません。問題は税金が適正に使われたかどうかですが、民間では売却先のない土地なのですから、「無駄遣いの代物」なのは間違いありません。
情報公開制度ができている現在では、こうした「やみ取り引き」がないと信じたいものです。政治を良くするためには、情報公開は私たち市民の有効な「武器」なのです。絶対権力は絶対腐敗します。一市民としてできることは限られていますが、こうした不正がはびこらないよう、政治を注視し、「灰色政治家」は次の選挙で投票しない(本当は落としてやりたいのですが、一市民の力では‥)と決めています。