水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

四方山(よもやま)ユーモア短編集 (2)開始

2021年08月30日 00時00分00秒 | #小説

 開始される前に、その場に到着しよう…とか、済ましてしまおう…と、考えるのは自然な流れである。しまった! と、うっかりして遅刻するという場合もあるのだろうが、フツゥ~は開始までに到着しよう! と少し早めにスケジュールを熟(こな)すものだ。私の場合も御多分に漏れない。開始までに早く到着すれば、当然、ゆとりめく気分となり、心もそうは乱れないだろう。と、なれば、四方山(よもやま)な予想外に起きる出来事にも冷静に対応や対処できるというものだ。まあ、時と場合によるのも確かだが…。
 今日は、第二話として開始にスポットを当てて描く四方山話(よもやまばなし)だ。^^
 とある試験会場である。
『…10:20だな…』
「はいっ!! 始めますっ! 問題用紙を開いて下さいっ!」
 呟(つぶや)きながら腕を見て開始時間を確認した試験官は、大声で会場全員の受験生に聞こえるような大声を発した。その声に呼応(こおう)するかのよう、長椅子へ横一列に着席している受験生達は一斉(いっせい)に裏返しされた問題用紙を引っくり返し始めた。試験の開始である。その中の一人の受験生、間抜(まぬけ)は、徐(おもむろ)に筆記具の入った筆箱をゴチャゴチャと選び始めた。他の受験生達は、待っていたっ! とばかりに、既(すで)に真剣な眼差(まなざ)しで筆記具片手に設問に取り組んでいる。だが、ゴチャゴチャしている間抜は未(いま)だに筆記具を選び切れないでいた。
『妙だっ! 確かに五本は入れたはずなのに、三本しかない…』
 これが、そのときの間抜の気分である。試験は既に始まっているのだから、筆記具に拘(こだわ)っている場合ではないのだ。それに、書ける筆記具が一本あればいい訳で、一度に数本、手に持って答案を書く必要はない。それが間抜には理解出来ない。いや、理解は出来ているのだが、五本に拘るあまり、試験が開始されされていることを忘れ去っていたのである。
 やがて試験は、経過時間の約半分、30分が過ぎ去ろうとしていた。半分が過ぎ去ったとき、間抜はようやく、あっ! と気づいた。それは消しゴムをフロアに落とした瞬間だった。
「しまった!!」
 間抜は、思わず大声を出していた。会場内の受験生達の視線が、一斉に間抜へ注(そそ)がれた。罰(ばつ)が悪い間抜は、思わずボリボリと頭を搔(か)き、愛想笑いを浮かべていた。そして、大声で、「ははは…試験は、もう始まってますよっ!」と言った。
 お前が言うんかいっ! である。皆さん、開始されれば、何事も! 集中してやりましょう!^^

                   完


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