水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

助かるユーモア短編集 (26)その時々(ときどき)

2019年07月14日 00時00分00秒 | #小説

 日々、生活している同じ繰り返しでも、その時々(ときどき)に起こる出来事は、少しづつ違ってくる。━ 一期一会(いちごいちえ) ━ などという名言(めいげん)もあるくらいで、その時々は二度と同じ形(かたち)では巡らない。起こる内容は同じであっても、その周(まわ)りを取り巻く環境や時(とき)はすでに違っていて、決して同じではないのだ。だから、その時々を大事にしないと取り返しがつかないことになる。例(たと)えば、あの時、受かっていたら…とか、あの時、出逢っていれば…といったタラレバ問答になる訳だが、あとの祭りなのだ。SF映画のように、あの時その時に戻(もど)れればいいのだが、未来がどうなるかは別として、今の時代ではまったく不可能なのである。^^
 昔、恋愛関係にあった、とある二人の男女が、何十年かぶりに、とあるところで、とある時に偶然、再会した。
「お久しぶりです、飯豆(いいまめ)さんっ!」
「ああっ! 田楽(でんがく)さんでしたわね…」
 二人は久しぶり、いや、ふたたびの再会に時を忘れて近くの喫茶店で四方山話(よもやまばなし)に花を咲かせた。
「あっ! いけないっ! もうこんな時間だっ! あの…お時間、大丈夫ですか?」
「えっ? 私ですの? 私は、もう隠居身分ですから別に…」
「そうですか…」
 田楽は飯豆の返答に、過ぎ去った時の流れの長さをふと、思った。二人は夕食をともに過ごすことになった。
 ここは、風情ある昔ながらの、とある料亭である。二人が食事を楽しみながら話をしている。
「ははは…あの時、待っていたんですよ、一時間近く…」
「えっ! 私も待ってましたわ、一時間近く…?」
「えっ? いや、それはおかしいな。吸物橋(すいものばし)の下でしょ?」
「いいえ、上で…」
「ええっ! そんな馬鹿なっ! 吸物橋の下で夜、八時に・・と言いましたよ、確か?」
「いいえ、吸物橋で夜、八時とだけお聞きしましたわ…」
「私、言わなかったですか…」
「ええ…」
「ははは…それじゃ、明日の夜、改めて八時に」
「ほほほ…はいっ! 吸物橋の上で」
「ははは…吸物橋の上で」
 二人はもうあの時には戻(もど)れない…という切ない同じ想いで笑って別れた。さすがにその後、あんなことやこんなことはなかった。^^
 とまあ、助かるような助からない、なんともお粗末なお話である。皆さん、その時々を大事にしましょう。^^

                                


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