水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

助かるユーモア短編集 (42)空腹(くうふく)

2019年07月30日 00時00分00秒 | #小説

 空腹(くうふく)・・これはもう、動物にとっては大変な事態である。この状態が続けば飢餓(きが)となるが、こんなときにフッ! と食べ物が現れたり食べられたりすれば、大層、助かる。こんなフッ! と助かる状況に至るのは、おそらく有り難い神様か仏様のお恵(めぐ)みに違いない。^^
 とある田舎にある町役場の生活環境課である。昼の三時過ぎ、疲れ果てたようにトボトボと犬山が帰庁した。
「どうしたんだっ? 偉く遅かったじゃないか…」
 同じ課の職員、白鷺(しらさぎ)が犬山に声をかけた。
「いや、どうもこうもない。行方不明になったニワトリを探してくれっ! という依頼があったから行ったまではいいが、あと一羽が見つからず、この時間だ…」
「どういうことだ?」
「どういうことも、こういうこともない。まあ、そういうことだっ! お蔭(かげ)で空腹を通り越して、歩く力もない…」
「ははは…。そりゃ、難儀(なんぎ)だったなっ! で、ニワトリは何羽だったんだっ?」
「16羽!」
「ニワトリだけに2[に]×8[わ]=16羽ってかっ!?」
「馬鹿なダジャレをっ! それより、なにか食べるものはないか!」
「食堂へ行きゃいいだろうが?」
「そんな力は、もうない…」
「ははは…大げさな。遅かったから店屋物の天丼、注文しといたぞっ、安心しろっ! もう来る頃だ…」
「ぅぅぅ…助かるっ! 持つべきは食い友(とも)だなっ!」
 犬山は思わすぅぅぅ…と涙しながら合掌(がっしょう)して白鷺を拝(おが)んだ。
「ははは…食い友かっ、それはいいっ!」
 白鷺は国宝の城のように優雅(ゆうが)に笑いながら返した。
 空腹で助かる状況に至れば、思わず合掌して拝むようだ。^^

                                

 


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