水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

助かるユーモア短編集 (39)糸(いと)

2019年07月27日 00時00分00秒 | #小説

 糸(いと)は、いろいろな意味で使われる言葉である。単なる糸といえば裁縫(さいほう)の糸を思い描くが、手術で使用される縫合糸(ほうごうし)、蜘蛛(くも)の糸、男女が結ばれる赤い糸など、他にもいろいろな意味で使用される。フフフ…金に糸目はつけんぞっ! などと時代劇で使われる悪い意味の糸もある。^^
 割箸(わりばし)は綻(ほころ)んだワイシャツを縫(ぬ)い合わそうと、裁縫箱(さいほうばこ)から針と糸を取り出そうとした。幸い、針はあったが、肝心(かんじん)の糸が残り僅(わず)かで、割箸の発想は頓挫(とんざ)した。その日は勤務が休みだったこともあり、即席うどんを啜(すす)って食事を終えた割箸は町へ糸を買いに出ることにした。
 二時間後、とある町のとあるデパートに割箸の姿があった。
 割箸が衣類売り場を探し回っていると、有り難いことに遠く前方に糸の陳列台が目に入った。やれやれ、これで助かるな…と大仰(おおぎょう)に割箸は思った。割箸は無くなりかけていた糸巻きと同じような糸巻きを手にして、コレだなっ! と確信すると売り場のレジ台へと向かった。レジ台前には女性の店員が、私がレジ係です…と主張するような顔で立っていた。割箸は買い物籠を台へ置き、買おうとする糸巻きを取り出した。
「…35番でよろしいんですね?」
 瞬間、女性店員の言う専門的な意味が割箸には分からなかった。割箸は、『…はあ、まあコレで餅(もち)は切りませんから…』とは思ったが、そうとも言えず、無言で頷(うなず)いてスルー[通過]した。
 帰り道、35番じゃないとどうしよう…という、ひ弱な気分も湧(わ)いたが、まっ! いいかっ! と、Uターンして訊(き)き直さず、そのまま帰宅することにした。
 帰宅した割箸が同じ糸巻きかどうか? を確認すると、有り難いことに同じで、割箸の発想の糸は切れることなく、助かることとなった。
 まあ、糸は餅を切らず、助かるために存在するものののようだ。^^

                                


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