分かれば、俺は何のためにクローン化したんだっ! と腹立たしくもなる。まあ、そう思っても、異星人化した城水にはどうしようもなかった。ここはひとつ、クローン[1]に残り約半月と言われた地球滞在期間を穏便に過ごすしかない。城水としては異星人と悟られないことが第一条件だった。そのためには、突発事態に馴れる必要があった。躱(かわ)す、スルーする、曖昧(あいまい)にする、暈(ぼか)す・・といった、あらゆる手段がいる。異星人と悟られれば、現在、留まっているUFO編隊にも影響が出る可能性があった。多くの仲間達に迷惑をかけるということは出来なかった。
二人が玄関を上がると、里子が出てきた。
「あらっ? 珍しいわね。二人いっしょ?」
[ああ、偶然(ぐうぜん)出会ってな。なあ]
城水は雄静(ゆうせい)を見て言った。
「うん、そうそう…。偶然って、どういう意味?」
一年生の雄静には偶然の意味が分からなかった。里子は思わず小笑いした。当然、城水も笑うところである。だが城水は笑わなかった。というか、笑えなかったのだ。テレパシーで送られたデータは、小学1年の知能や学習程度はすべて細分化して城水の脳内へ収納されていたからだ。里子はそんな城水の顔を訝(いぶか)しそうに見つめた。
「まあ、そんなことはどうでもいいわ。二人とも、カレーが温(あたた)めてあるから、冷めないうちに早く食べてね。私、これからちょっと出かけるから…」
そう言って靴箱から靴を出す里子はいつもの普段着ではなかった。