水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -50-

2015年09月15日 00時00分00秒 | #小説

 城水は改(あらた)めて里子の顔を見た。化粧を塗りたくったその顔は、この世のものとは思えず、異星人ぽかった。城水は、なぜかその顔が美人に見え、親近感が湧(わ)くのを覚(おぼ)えた。
 異星人だと見破られまいと意識する保身の心理が、いつの間にか城水の観察力を失(な)くしていたのである。
[分かった…。で、今頃からどこへ行くんだ?]
「嫌だわ、この前、言ったじゃない。奥様会よ」
 奥様会のことは以前、耳にして多少は認識していた城水だったが、その実態までは、まだ把握(はあく)していなかった。データに送信ミスがあったのか、奥様会の情報は含まれていなかったのである。
[ああ、そうだったか…。じゃあ、早く帰って来いよ]
「ええ…。お夕食会だけだから、早く済むとは思うけど…」
[けど? けど、なんだ?]
「この前、言ったと思うけど、高くつくかも…。若狭の奥様には負けられないわっ!」
 里子が珍しく息巻いた。
[ははは…]
 城水は若狭という人物を認識していなかった。これも情報データに送信漏れがあったのだ。完璧(かんぺき)なはずのデータ群に綻(ほころ)びが何か所もある。これでは、少なくてもあと半月をともにする生活の先行きが思いやられた。
[その若狭さんというのは?]
「あら? 言ってなかったかしら。銀行の頭取の…」
 城水の問いかけに、里子は怪訝(けげん)な顔をした。


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