水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

連載小説 幽霊パッション 第三章 (第六十二回)

2012年03月11日 00時00分00秒 | #小説

  幽霊パッション  第三章   水本爽涼
                                
    
第六十二回
しかし、さすがに落ちついてそのままいると、どうも具合が悪いのではないか…と幽霊平林には思えてきた。もちろん、死んでいるのだから、この場合の具合が悪いとは、体調の異常を指すのではない。今までとは状況が違うから、やや戸惑う感が生じた、と云うべきである。むろん、不安感は皆無だ。そこで、幽霊平林は今までの状況復帰を願いつつ、上山のところへ現れることにした。もし、上山に自分の姿が今までと変わらず見えるなら、自分の眼が妙だ、ということになる。幽霊平林は人間界の上山のいる現在時間がいつ頃なのかと考えることもなく、スゥ~っと移動して上山の家の前へ現れた。日射しからして朝だとは分かったが、上山が休日だということまでは知らない。とりあえず、上山の所在を確認しようと壁を透過して、寝室、そしてキッチンと流れた。上山は、カフェオレを飲み終え、フレンチトーストの最後の一片を口へと運んだところだった。
『課長! 僕です!』
「んっ? どこだ…。なんだ、そこか」
『そこかって、課長、僕が見えるんですか?』
「ああ、もちろんだ。ちょいと窓の朝陽で一瞬、見にくかっただけだ…」
『そりゃ、とにかく、よかったです…』
「よかったって、どういうことだ?」
『実は、僕には自分の姿が見えないんですよ…』
「なにっ! そりゃ偉いことじゃないか。いったい、いつからなんだ?」
『いつからって、つい今し方です。少し前ですよ』
「原因は?」
『それが分りゃ、急いでこうして現れませんよ』
「ああ、すまん。そりゃ、そうだな…」
『課長は、どう思われます?』


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