水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

SFユーモア医学小説 ウイルス [28]

2023年02月09日 00時00分00秒 | #小説

 次の日、海老尾は、いつもの研究所で研究に奮闘していた。レンちゃんに出逢った昨日までの研究姿勢とは違い、意識はしていないのだが気分がアグレッシブになっていた。
「どうしたんだ、海老尾君? 何かいいことでもあったのか?」
 蛸山が海老尾の雰囲気の違いを、つぶさに察知して訊(たず)ねた。
「えっ!? 僕、どこか違いますか?」
 海老尾はギクッ! として一瞬、暈(ぼか)した。暈しはしたが、レンちゃんのことを気づかれたんだろうか…と気がかりでならない。よくよく考えれば、そんなことがある訳もないから、しばらくして、ひとまずは安心した。すぐ安心するのが普通人だから、海老尾は、まあ、そういう男なのである。
 朝が過ぎ、昼がいつものように過ぎて夕方が近づいていた。
「海老尾君! 操作の方は明日にして、今日はこの辺にしよう…」
 珍しく、蛸山の方からチャイムが鳴る前に声がかかった。いつもは、海老尾が、かけるのである。それも、チャイムが鳴ったあと、遠慮気味に、である。それが、今日は蛸山からだ。
「は、はいっ!」
 海老尾は即答したが、少し訝(いぶか)しかった。
「実は、私の研究が論文として世界へ紹介される運びになったんだ。こんなことを自分から言うのはなんだが、我ながら少し嬉(うれ)しくてね、ははは…」
「そりゃ、すごいじゃないですかっ! 所長、おめでとうございますっ!」
「んっ! ありがとう…。まあ、君の一助もあっての論文なんだがね」
「いや、僕は何も…」
「そうなんだよ。何もしてくれてないんだが、ちゃんと私と一緒に研究してくれたからね…」
 蛸山が軽く言った。海老尾としては、そんな言い方はないでしょ! と不満に思えたが、とても口に出来ない。それも、研究所で蛸山の研究を手助けしていただけなのは確かだった。

                   続


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