水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

SFユーモア医学小説 ウイルス [20]

2023年02月01日 00時00分00秒 | #小説

 川べりを漫(そぞ)ろ歩くほろ酔いの二人に冷えた風が心地よかった。秋が深まっていた。
「問題の新型コロナに動物は感染しないのか?」
「俺は第二室[感染制御研究室]で第一室[感染源動物対策室]じゃないからよく分からんが、聞いておくよ!」
「ああ…。鳥インフルエンザ、狂牛病、豚コレラとかあるから、その点がよく分らん」
「ああ、それはそうだ…」
「第五波は終息したが、アレは不思議じゃないか? 急にだぜっ!?」
「いや、それは俺も思ってんだっ!」
「何か誘因があるんじゃないか? むろん、ワクチンによる集団免疫が出来たのも減少した誘因の一つだろうが…」
「それは、そうだな。俺も急に減少した誘因を知りたいと思っている。今後の新生ウイルスに対する予防、撃退の一策になるかも知れんからな…」
 赤鯛は地下鉄が通勤路だったから、二人は川べりから街路に出て分かれた。海老尾は月極(つきぎめ)の駐車場に車を置いて通勤していた。車といっても二十年以上乗り回したポンコツながら愛着があった。飲んだ日は駐車場近くのバスを利用するのだが、今日がその日だった。海老尾はこれでもゴールド免許で、五年更新の優良運転手だった。
 バスに乗ると、急に疲れから睡魔に襲われた。とはいえ、こういうことも度々あり、降りるバス停前に必ず目覚めるというパブロフの犬的な条件反射がいつの間にか海老尾には備わっていた。その一芸には、海老尾も自分のことながら一目置いていた。
『次は◎□△町、◎□△町です…』
「滑らかな女性のアナウンスが車内に流れ、海老尾は、これも条件反射のようにブザーを押していた。
 ◎□△町は海老尾が暮らす町だった。通勤距離も手頃で、暮らす賃貸マンションには満足していた。ただ、賃貸では月々、使える可処分所得も減る。孰れは、小さいながらも一軒家を…が海老尾の思いだった。
 マンション入り口で自動開閉カード差し込んだあと、エントランスのエレベーターで二階まで上がる。そしてしばらく歩くと賃貸の自室があった。自動認識のパスワードを入力すれば、毎度のことながら、当たり前のようにドアが自動で開いた。

                   続


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