水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

足らないユーモア短編集 (6)出席者

2022年06月30日 00時00分00秒 | #小説

 とある結婚式場である。
「どうなんだっ!? 田所さんはっ!!」
「はっ! もうお着きになると思いますが…」
「思いますって、披露宴までもう五分もないんだよっ!」
「はっ! そうなんですが…」
「はっ!はっ! って、君ってやつは、ほんとにっ! あれだけ言っといたろっ!!」
 新郎新婦の仲人を務める田所夫妻が式場に到着しないのである。はっきりと面子(メンツ)が足らない訳だ。次期の副社長ポストを秘かに狙う常務の黒崎は、イラつきながら課長の平林に詰め寄った。そのとき、式場の係員が黒崎に近づくと、小声で告げた。
「あの…当式場では、先にご出席される方々のお写真をお取りする決めになってるんですが、皆さん、もうお揃いでしょうか? お揃いなら、ご案内させて戴きますが…」
「はあ、それが、仲人ご夫妻がまだ…」
 黒崎は渋面(しぶづら)で、係員にそう返した。
「弱りましたね、もうお時間なんですが…。生憎(あいにく)、今日は混んでおりまして、お待ち出来ないのですが…」
 係員も渋面で黒崎に返した。式場責任者を任(まか)されている課長の平林は、渋々面(しぶしぶづら)である。^^
「いいですっ! 皆さんの撮影を先にっ!」
 平林はついに爆発したような決断の声を出した。
「先にっ! て君! 田所夫妻はどうするんだっ!!」
「常務、卒業写真のアレですよっ!」
「…アレというと?」
「休んだ生徒は写真の隅にハメコミで小さく…」
「ああ、アレなっ! 時間もないことだし、アレでいくかっ! すみません! アレでお願いしますっ!」
「分かりましたっ! アレですねっ!?」
「はい、アレで…」
 黒崎と平林は係員に軽く頭を下げた。係員は了解して頷(うなづ)くと、撮影室の方へ向かった。
 出席者が足らない場合はアレがいいようだ。^^

                   完


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