水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

疲れるユーモア短編集 (92)有りのまま

2021年05月13日 00時00分00秒 | #小説

 有りのまま生きれば疲れることはない。人は見栄(みえ)や体裁(ていさい)、自己顕示欲(じこけんじよく)など、様々な計算づくの意識に苛(さいな)まれ、自分を着飾って生き続けるのである。まあ、程度の差は大なり小なりあるのだが…。^^
 二人の男が数十年ぶりにとあるレストランで待ち合わせ、出会った。
「おおっ! お久しぶりです。聞くところによれば、ご出世なすったようですなっ! なんでも、ホールディングの会長とか…」
「ははは…たかが知れてます。僅(わず)か数十億のちっぽけな会社です。ところで、あなたはっ?
「私ですか? ははは…私は、これだけのものです。近くの禿岡町(はげおかまち)でその日暮らしの小さな魚屋をやっとりますっ! ははは…」
「ほう! そうでしたか…」
 二人は豪勢な食事に舌鼓(したづつみ)をうち、軽く一杯やったあと、別れた。
 さて、ここで問題です。皆さんはどちらの生活が幸せだとお考えでしょう?^^
 答を言わずに話を終わるのもなんですから、種明かしをしますと、魚屋のご主人の方が幸せだったんです。レストランの会話は本当だそうで、包み隠さず有りのままを話されたということです。一方、ホールディングの会長さんは? というと、会社経営が思うに任せず、近々、海外の大会社に吸収合併される状況にあったらしいのです。当然、会社トップの座を追われることは明々白々だった訳です。魚屋のご主人はトップのままですから、比較しますと魚屋のご主人の方が幸せな訳です。有りのまま・・は疲れることなく幸せになれる確率が高いのです。^^

                   完


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