水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

思いようユーモア短編集 (51)前向き

2020年12月22日 00時00分00秒 | #小説
 前向き・・という言葉がある。その逆なら後ろ向きだ。^^ この言葉は、前向きで座るとか後ろ向きになって見ないようにする・・などという単に姿勢を表す意味だけではない。前向きに検討する、前向きに取り組む・・などといった気持を表す言葉でもある訳だ。今風に言えばアグレッシブという言葉に相当するのだろう。要は、積極的な思いようで生きていこう! という意欲ある姿勢で、非常に好感が持てる。世の動きには個人のそうした思いようを削(そ)ごうとする逆の動きがある。もちろん、そんな思いようを助けようという神さまか仏さまのような有難い動きもある訳で、私なんか日々、目には見えないそんな動きに感謝し、合掌(がっしょう)しているようなことだ。^^
 蛸壺は、とある清掃組合に勤務する、しがない公務員である。この日も住民のゴミ処理解決の職員として奮闘していた。場所は、もうお分かりだろう。ごみ収集車の搭乗員である。日夜出るごみは豊かな暮らしのツケ[負債]・・と蛸壺は受け止めていた。だが、そう重くは考えていなかった。^^ 出るものはしょ~~がねぇじゃん! くらいの気分である。^^ ただ、蛸壺の仕事ぶりは前向きだった。心の奥底のどこかで『俺は正義の味方、ゴミレンジャーだっ!』と思っていたのである。^^ こんな人ばかりなら、国も、さぞよくなるに違いない。^^ しかし、ゴミレンジャー蛸壺に立ち向かい、巷(ちまた)を汚(けが)す悪いポイ捨てマンもいる訳である。両者の戦いは日夜、繰り広げられていた。
「よしっ! ここで終わりだなっ、蛸っ!!」
 同僚の先輩、磯貝(いそがい)に声をかけられ、『俺は蛸じゃないぞっ! 蛸壺だっ!』と思いながら蛸壺は無言で頷(うなず)き、首筋のタオルで汗を拭(ぬぐ)った。梅雨明けした日射しが容赦(ようしゃ)なく蛸壺に照りつけていた。それでもゴミレンジャー蛸壺は、ナツノアツサニモマケズ・・ごみ収集車に吸いつきながら前向きに生きていた。^^
 蛸壺の楽しみは仕事のあとの一杯で、顔馴染みの居酒屋、網舟(あみふね)へ通うことだった。蛸壺が網舟へ前向きに壺入りする訳である。^^
 このように前向きな思いようは、世の中の気分を、なんとなくよくする。^^

                      

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