水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

暮らしのユーモア短編集-96-  いつものペース

2018年08月19日 00時00分00秒 | #小説

 暮らしの中で、いつものペースを守る・・というのは重要な生活態度である。もちろん、生活習慣病などという、いつものペースは避(さ)けねばならないのだが…。いつものペースを維持(いじ)するとは、相撲で言われるところの得意の形(かた)である。ハズ? でいっきにもっていったのが、この関取の…とか解説者が、お上手(じょうず)に語られるが、その形こそが備わったいつものペースなのだ。当然、このペースを乱そうと周囲は来るから、それに対応する多くのペースを持つ者が上位力士となり得るのだろう。
 いつものペースで相撲の実況中継が始まっている。
「そうですねぇ~~。地力(じりき)は十分に備わってるように思えるんですよっ! あとは下位の力士に取りこぼさないことですかねぇ~」
「なるほどっ! もう、ソコまで届いてるんですねっ?」
「届いてるかどうかは分かりませんが、もう十分にそれだけの力は備わってる・・と、私は見てますっ!」
「と、いうことは、この一番も…」
「ええ、いつものペースなら問題ないでしょう!!」
 そう言いながら解説者はアナウンサーをチラ見した。いよいよ制限時間が一杯となった。解説で注目される力士の相手は、平幕の小兵(こひょう)力士だった。
 相撲インタビューである。勝負は一瞬のうちに決着した。
『やりまたねっ!! 関取っ!』
『はいっ! 慌(あわ)てず、いつものペースでやりましたっ!』
「…」
「…」
 解説者の二人は言葉を失っていた。注目の力士は足を(すべ)らせ、自(みずか)ら転(ころ)んで破れたのである。まだ、いつものペースが地に着いていなかったのである。^^

                                 


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