トラブルには目に見えたトラブルと見えないトラブルがある。見える方は修正しやすいが、見えないトラブルは厄介(やっかい)で、原因がなかなか判明(はんめい)せず、ぅぅぅ…と泣ける場合が多い。
日曜の朝、とある普通家庭の居間である。
「何を朝からゴチャゴチャしてるのっ?」
娘の真菜が父親の一樹(かずき)を訝(いぶか)しげに見ながら言った。
「お前、これどうすりゃいいか、知らないかっ?」
一樹は目の前の長机の上に置かれたノートパソコンを弄(いじ)くりながら、偉(えら)そうに上から目線で言った。娘に弱みを見せたくないっ! という父親特有の物言いだ。
「パソコンがどうかしたのっ? お母さんがご飯にするからって…」
真菜は肩透かしで用件だけを言った。
「ああ、そうか…」
肩透かしを食らった一樹にすれば形(かた)なしである。といって、メンツもあるから頼む訳にもいかず、さて…と困った。
「フリーズか…」
チラ見し、パソコンのトラブルに気づいた真菜が踵(きびす)を返しながら捨て台詞(ぜりふ)を吐(は)いた。親としては無視されたようで形なしである。
「お、お前な…。分かってんなら、なんとかしろやっ!」
今度は強権発動である。
「そこは、お願いします・・でしょ?!」
「…お願いします」
小声で一樹はボソッと返した。
「どれどれ…」
真菜が弄り始めると、パソコンのトラブルは数分で、何ごともなかったように解消された。
「じゃあね…」
真菜は格好よく立ち去った。
トラブルは父親の威厳(いげん)をなくすのである。
完