水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

泣けるユーモア短編集-48- トラブル

2018年03月24日 00時00分00秒 | #小説

 トラブルには目に見えたトラブルと見えないトラブルがある。見える方は修正しやすいが、見えないトラブルは厄介(やっかい)で、原因がなかなか判明(はんめい)せず、ぅぅぅ…と泣ける場合が多い。
 日曜の朝、とある普通家庭の居間である。
「何を朝からゴチャゴチャしてるのっ?」
 娘の真菜が父親の一樹(かずき)を訝(いぶか)しげに見ながら言った。
「お前、これどうすりゃいいか、知らないかっ?」
 一樹は目の前の長机の上に置かれたノートパソコンを弄(いじ)くりながら、偉(えら)そうに上から目線で言った。娘に弱みを見せたくないっ! という父親特有の物言いだ。
「パソコンがどうかしたのっ? お母さんがご飯にするからって…」
 真菜は肩透かしで用件だけを言った。
「ああ、そうか…」
 肩透かしを食らった一樹にすれば形(かた)なしである。といって、メンツもあるから頼む訳にもいかず、さて…と困った。
「フリーズか…」
 チラ見し、パソコンのトラブルに気づいた真菜が踵(きびす)を返しながら捨て台詞(ぜりふ)を吐(は)いた。親としては無視されたようで形なしである。
「お、お前な…。分かってんなら、なんとかしろやっ!」
 今度は強権発動である。
「そこは、お願いします・・でしょ?!」
「…お願いします」
 小声で一樹はボソッと返した。
「どれどれ…」
 真菜が弄り始めると、パソコンのトラブルは数分で、何ごともなかったように解消された。
「じゃあね…」
 真菜は格好よく立ち去った。
 トラブルは父親の威厳(いげん)をなくすのである。

                               完


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする