水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

泣けるユーモア短編集-45- 早春(そうしゅん)

2018年03月21日 00時00分00秒 | #小説

 早春(そうしゅん)といえば、悲喜(ひき)こもごもの季節である。ははは…と笑える場合もあれば、なぜか、ぅぅぅ…と泣けるような、もの寂(さび)しい場合も当然、ある訳だ。
「ぅぅぅ…また、異動ですっ!」
「また、異動かっ! ははは…しばらくの付き合いだったな。また戻(もど)ってこりゃいいさっ! 夜逃げじゃないんだからなっ、異動ってのはっ! ははは…」
 今年も異動の辞令を受けた巡査部長の蒲鉾(かまぼこ)は警部の先輩刑事、山葵(わさび)に醤油(しょうゆ)で食われていた・・いや、慰(なぐさ)められていた。そこへ現れたのが副署長、滝盾(たきたて)である。滝盾は炊(た)き上がったばかりの美味(うま)そうなご飯顔(はんがお)、いや、赤ら顔で訊(たず)ねた。
「どうかしたのかね?」
「いやぁ~副署長。どうってことないんですよ。山葵がまた異動だそうで…」
「ははは…またかっ! 君は異動向きなんだなっ! まあ、また戻りゃいいさっ! 気にしないで…」
 滝盾は蒲鉾を山葵(わさび)醤油(じょうゆ)に絡(から)ませ、熱々(あつあつ)のご飯で頬張(ほおば)った・・いや、肩を軽く撫(な)でて慰(なぐさ)めた。
 早春は笑えて泣ける長閑(のどか)な、いい季節である。

                               完


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