最後の結果がいいと人は有頂天(うちょうてん)になる。逆に結果が悪いと、困ったことだがお通夜になるのが相場だ。では、その結果に至(いた)る過程[プロセス]はどうでもいいのか? という疑問が芽生(めば)える。芽生えない人は能天気で気楽に生きやすい人だ。こういう人を目指すのが一番いいのだが、世の中はそうは問屋が卸(おろ)さず、品物に不自由する・・のではなく、心理[メンタル]面で影響を受けることになる。
仕事が始まった朝の市庁舎である。
「ははは…よかったじゃないかっ! 復帰してっ!」
「ええ、それはまあ…。結果オーライですけどね」
「というと?」
「まあね…。時間がかかると思ったんで、F8でスタートアップ回復画面に復帰したところで、そのまま帰ったんですよ」
先輩職員の十坂(とさか)と後輩の背羽(せばね)が語っている。話しているというよりは語っているのである。それは、すでに執務時間に入っているから・・ということもあった。
原因は昨日(きのう)の閉庁前に突然、起きたメイン・パソコンのスタートアップ不調にあった。運悪く、フラッシュ・メモリーに落とす前のデータが山積していて、職場は大騒動となったのである。
「なに、やっとるんだっ! 明日までに復旧させておきなさいっ! まったく、近頃の若い者(もん)は困ったもんだっ!」
十坂や背羽の上司である課長の鳥目(とりめ)は、瞼(まぶた)を忙(いそが)しそうに閉じたり開いたりしながら課を出ていったのだった。「まあ、そういうことだから…」と、慰めにもならない言葉を背羽にかけて帰った十坂だったが、さすがに気になり、2時間以上も早く、早朝から出勤したのである。
「原因は何だったんだろうね?」
「さあ…。やっていた私が分からないんですから…」
「ははは…」
「ははは…過程[プロセス]より結果か」
二人は、もう一度、大笑いした。そこへ、課長の鳥目が出勤してきた。
「あっ! おはようございますっ!」「おはようございますっ!」
「…ああ、おはよう。なんとかなったのか?」
「ええ、なんとか…」
「さすがは背羽君だっ!」
鳥目は昨日と打って変わって笑顔で背羽の肩を軽く叩くと課長席に向かった。
「今朝は早いですね、課長」
「ああ…。私にも責任があるからな」
それを聞いた二人は、さすが課長だ…と思った。ところが、鳥目の真意は副部長昇格の内示が迫(せま)っていたからだった。結果は、責任ある男と映ったが、その実、過程[プロセス]は出世目的だった。
完