代役アンドロイド 水本爽涼
(第215回)
『はい。お蔭さまで…』
沙耶は当たり障りのない言葉を返した。
「そうですか。それは、よかった…」
『保、ちょっと…』
沙耶は保を部屋隅へ手招きして呼んだ。保は訝(いぶか)しそうに沙耶に近づいた。
「なんだよ!?」
『つい先っきね、長左衛門の書生ってのが現れたのよ』
「書生!? なんだ、それ?」
『保も知らないんだ。私もね、言語認識システムが作動しないのよ。こんなこと初めてだわ…』
「あっ!」
保には思い当ることがあった。長左衛門は元工学部教授の超エリートだったと兄の勝(まさる)から聞かされたことがあったのだ。それを今、保は思い出していた。
『どうしたの?』
「いや…そんなことはないと思うが…」
『なんなの?』
「ひょっとすると、じいちゃん、完成させたのかも知れん、アンドロイド」
『って? …三井はアンドロイドってこと?』
「三井? その書生、三井って言ったのか」
『ええ…。なんか、ここへ来てはいけないとか、訳分かんないこと言って離れへ戻ったわ』
「そうか…。じいちゃんはそのこと知らないな」
『そのはずだけど…』