代役アンドロイド 水本爽涼
(第206回)
「ははは…明後日(あさって)からね。それはよかたい。いや、別に土産は期待しとらんですから」
保が家賃を支払いにいくと、藤崎は地方訛りを含めて、暗に土産を請求した。言わなきゃよかった…と、保は後悔した。
保と沙耶はその二日後、車に揺られていた。快晴の空が青く澄んで、心地よかった。二人ずれの恋人気分も一層、保のテンションを高めた。
「こりゃ、いい眺めだ、車でよかったよ。下はそう混んでないし…」
『ええ。私はいいけど、混めば気分が疲れるわよね』
「ああ。時間とかあるからな…」
ゆったりと座り、保は缶コーヒーをグビッとひと口、飲み、一端止めた車のエンジンキーを捻った。車は中林に前日、借りていた。マンションの前には十分過ぎるほどの駐車スペースがある。マンションの住人なら賃借料なしに停められた。こういうところに管理人、藤崎の人柄が出ていた。
ドライブ感覚だから保も沙耶もテンションが昂(たかぶ)り、ルンルン気分になった。下を走っているのだからドライブインはなかったが、適当な店を探して食事を済ませ、保は走行した。もちろん、沙耶は保が店にいる間、車の中にいて、本を読んでいた。一冊500ページほどを10分で読破するハイペースである。沙耶が伴(とも)にいないのは、物足りない保だったが、注文しないで同席されるのも変に思われるから、痛し痒しに思えた。そんなこともありながら、夕方前には岸田家の邸宅に着いた。