代役アンドロイド 水本爽涼
(第189回)
長左獲門は、客達を見回すと、ギロッ! と、眼光鋭く、一瞥(いちべつ)した。
「これは、失礼いたした!!」
さらに大声でひと言、そう響かせると、長左衛門はコップの水をガブッ! と飲んだ。客達は怖いものを見たように視線を戻し、神妙になった。 その頃、マンションの沙耶と保は笑っていた。
「ははは…、連中の顔見たか? あんな間の抜けた三人は今まで見たことがない」
『保の飛行車が激し過ぎたんじゃない?』
「かもな、ははは…」
沙耶は面白いという感情で笑っている訳ではない。感情認識システムがその場面に最適な表情を選んだだけなのだ。人間の感情の起伏なのではなく、システムによる選択の結果だから、感情的には冷めた笑いなのである。とはいえ、外面的には保とまったく同じ笑いで、違和感はなかった。
『これで、いよいよ私のボランティアね』
「そうだな。当分、研究室は暇(ひま)になりそうだからな。沙耶、まず何がしたい?」
『急に訊かれても…。まあ、いろいろあるから。ちょっと、待って』
沙耶は停止すると瞑想するかのように目を瞑(つぶ)った。そして、15秒が経過した後、スッ! と目を開けた。
『分かったわ!』
「分かったとか、そういうんじゃなくってさ。好みだよ、好み。沙耶がやりたいことさ」
『うん、そうね』