代役アンドロイド 水本爽涼
(第127回)
「いや、ほんとなんです。田舎の伯父(おじ)の一人娘なんです」
「なにも嘘ては言っておらんですよ。そうやったですか…。なんか事情でん、お有りなんね?」
「はあ、ちょっとした…」
「他人の私が、お訊きしても、しょんなかことです。別に気にしとらんですから…」
「そうですか。それじゃ、失礼します。早朝から無駄話をさせ、申し訳ありません」
「いいえ~。そいより、25日ですから、お忘れなく」
「はい、それはもう…。では」
保は一礼すると、106号室のドア前から退去した。一歩、外へ出ると、冷えた雑踏の臭いがした。だが保には、ひとつ問題を片づけられたことで、安らぎがあった。
研究室へ着くと、いつもと様子が違っていた。すでに保以外のメンバー全員が揃(そろ)っていたのである。保は一瞬、目の錯覚か…と、思った。
「あれっ? 皆さん、お早いですね?」
保は時間を間違えたかと、腕を見た。いつもより5分ばかり早い。保は訳が分からず、首を捻(ひね)った。
「お前が遅いんだよ」
重そうなアフロの頭を上げ、後藤が保を見た。おいおい、お前には言われたかぁ~ねえよ! と思えたが、保は我慢した。
「岸田君、言っておいたろ。今日は最終走行実験をするって…」
「そうでした…」
山盛教授が言い、講師の但馬がいつもの小判鮫のように追随した。