幽霊パッション 水本爽涼
第百六回
『ということは、課長もゴーステンの何らかの影響を受けておられる可能性があると?』
「ああ…。今の段階では、何の異常も認められんがな」
『ゴーステンって、放射能のようなものでしょうか?』
「うん、ある種、見えない点ではな。ただ、それで死ぬってこっちゃないが…」
『僕の場合は、生きるってことじゃない、って訳ですね?』
「そうそう。君の場合は、死ぬんじゃなく生きるんだったな、ははは…」
上山は思わず笑いが込み上げ、困った。
「まあ、どちらにしても、生死を超越した次元の話だ」
『僕としては止まればいいんですよ、自分の意志で…』
「それって、人間の場合、熟睡できるってことだよな」
『ええ、まあそうなりますかね』
「止まれん、っていうのも困りものだよな。ブレーキが壊れた自動車のようなものだからな」
『はい、その通りです』
「どうすりゃいいか、私には分からんが、ゴーステンにヒントが隠されているような気がする。一度、佃(つくだ)教授のところへ行って話してみよう」
『なにぶん、よろしくお願いします』
「ああ…、折角こうして現れてくれたんだから、出来る限りのことはさせてもらうよ」
幽霊平林はプカリプカリと浮かびながら、いつもの陰気な姿勢でペコリと上山にお辞儀した。
『止まれないといっても疲れるってこっちゃないんですから、まあ、緊急を要さないんですが…』
「ああ、そうか…。それで安心したよ。急患のような騒ぎなら偉いことだからなあ」
『ははは…。ご安心下さい、そんなのじゃないですから。それに、止まれないといっても、一メートル内外ですから…』
「ふ~ん。なんか、実感がないから答えようもないが…」
その後、しばらく雑談を交わした後、幽霊平林は消え失せた。