水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

連載小説 幽霊パッション (第八十四回)

2011年08月01日 00時00分00秒 | #小説

    幽霊パッション    水本爽涼                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      
                                
    第八十四回
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                     
「ただ、それだけのことって、大きなことじゃないか!」
『ええ、それはまあ…』
「それはまあ…なんて、悠長な。いったい、どういうことなんだ、平林君」
『おや、久しぶりに僕の名が出ましたね』
「そんなこたぁ、どうでもいいんだよ!! 気を持たせる奴だ」
『すみません。本当のところを云いましょう。課長が私達霊界と人間界の狭間(はざま)へ少し移動されたから…、いや、迷い込まれたからと云った方がいいでしょうか』
「なにを、まどろっこしいことを…。私は何もしちゃいないよ。いつものように寝て、いつものように起きた。ただ、それだけのことだ! それで、どう移動したって云うんだ、君!」
『またまた…。そう興奮しないで下さいよ、課長』
「興奮など、しとりゃせんよ。状況が急に変わったから面喰らっとるだけだ!」
 上山は強がってみせた。
『はいはい、分かりました。そら、そうでしょう。でも課長、ここは冷静になって下さいよ。このまま迷い込んでますと、もうこのままですからね、ずっと…』
「なんだ君! 私を脅(おど)かしてるのか? いい加減にしてくれ」
『脅かしてる訳じゃないですよ。真実を語っただけです』
「なら、どうすりゃいいって云うんだ? 私には抜け出す方法(すべ)なんて分からんぞ」
『まあ、落ちついて下さい。ああ…、ここに手頃なベンチがあります。座って下さい。私も横で浮いてますから…』
「浮いてますから・・か。ははは…、少し笑えたよ」
 そう云いながら歩みを止めた上山は、目の前の青い駅ベンチに座った。


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