幽霊パッション 水本爽涼
第十回
次に幽霊平林がなぜ現れるのか、という点である。これは、生前出来なかったことに想いを残した霊が浮遊霊となっている…といった霊に関する著書を探せば手がかりが掴(つか)めるか、と上山には思えた。
上山が図書館へ入ることなど長い間なかった。それに、この市立図書館は上山にすれば始めてである。自動ドアの玄関を入った左側には受付があり、司書らしき女性が三人いた。その中の一人は、蔵書の返却本や新刊を小まめに棚へ運んで右往左往している。そして、他の二人のうち、一人はパソコンへ向かってキーを懸命に叩き、もう一人は受付に立って書類に目通ししていた。上山はその立っている係員へ徐(おもむろ)に訊(たず)ねた。
「あのう…、心理学とかの本を探したいのですが…」
「心理学ですか? どういった種類でしょう。…専門書ですか?」
「えっ? ええ、まあ…」
「専門書でしたら、あちらの棚ですね」
係員が指さした方向を見れば、何やら厳(いか)めしい本が棚に並んでいる。上山は、「どうも…」とだけ軽く頭を下げながら返し、その本棚の方へ歩を進めた。
本棚には、ぶ厚い鎧(よろい)を纏(まと)った本が、横一列に何段もびっしりと並んでいた。その規則正しさは、ある種、軍服に身を包んだ多くの兵士が、一列横隊に隊列を整えて立っている姿に見えなくもない。上山は、こんな筈(はず)じゃなかった…と思った。本からして、もう少し読みよい雑誌とまでは薄っぺらくない種々の市販本が、所狭しと不揃(ふぞろ)いに並んでいるだろう…と思ったのだ。係員に訊(き)かれたとき、もう少し詳しく説明すりゃよかった…と、上山は後悔した。しかし、また戻って訊ねるというのもバツが悪い。とりあえず、は、ひと通り見て、適当に、いろんな本棚を見回るか…と、上山は自らを納得させた。