夏の怪奇小説特集 水本爽涼
第四話 ゴミ人間(2)
その日は別に変わったこともなく、いつものように会社へ出勤した。
ただひとつ驚いたのは、例のゴミ置き場の前を通りかかったとき、私が入っていた黒のゴミ袋は綺麗に整っており、しかも破れた痕跡が全く残っていなかったということである。私が踠(もが)いて破り、そこから出たのだから、当然、辺りはゴミが散乱している筈なのだが…。
会社へ着き、デスクで考えると、そのゴミ置き場の辺りで思い当たることといえば、煙草の吸殻を投げ捨てたことぐらいであった。
『そんなことはある訳がない…』と思い、夢を見たんだ…と、自分に言い聞かせた。それでも、裸足で家へ帰ったという記憶は残っていた。
その後、数日が経過していったが、これといった異変はふたたび起こらなかった。
次にその妙な出来事が起こったのは、私が意図的に吸殻を投げ捨てたことに起因する。勿論これは、その後、異変が起こらなかったから、敢えて思い当たる行為をしてみた迄なのだが、その愚行の背景には、私自身がこの出来事を真実とは捉えていなかったという節もある。そして、その日も就寝する迄は何事も起こらなかった。いや、だった筈である。
次の朝、目覚めると、やはり例のゴミ置き場に私はいた。
時間は? というと、前回の時間よりも遅く、六時半近くであった。そして前回とは違い、人の気配も少し、し始めていた。状況は前回の経験則で理解されているから、避難しようと素早くその場を離れ、今度は小走りでその場を離れた。
家へ戻ると、妻が起きたようだった。キッチンで物音がしていたからだが、気づかれぬよう、泥棒足で二階へ上がった。そしてその日も、その後は何事もなく過ぎていった。
二度あることは三度ある、とはよく云うが、私は半分、依怙地になっていたのだろう。元来の負けず嫌いの性格が、ふたたび私を挑戦させるかのように、その異変に立ち向かわせた。
次の日の朝、私は通勤途上の例のゴミ置き場で立ち止まり、意識的に煙草を投げ捨て、しかも靴で踏みつける仕草で火を消した。
その日の夜は起こるであろう異変に備え、パジャマに着替えず床に着くことにした。
続