中野みどりの紬きもの塾

染織家中野みどりの「紬きもの塾」。その記録を中心に紬織り、着物、工芸、自然を綴ります。

「ボストン美術館 華麗なるジャポニスム展」を観て――

2014年08月22日 | 工芸・アート

95年の5月に訪ねたオランダのゴッホ美術館で買ってきた絵葉書。たくさん買ってきたのですが、たった1枚残ってました。
「グラスに入れた花咲くアーモンドの枝」1888年


夏休みに入る前に紬きもの塾有志の方たちと「ボストン美術館 華麗なるジャポニスム展」を世田谷美術館で観て来ました。

鑑賞後には併設のレストランでコース料理をいただきながらミニアート塾(講師・笹山央先生)付きの趣向でした。

食事をしながらみなさんが特に気になった作品や全体の感想などを話してくれました。
図録で確認しながら、ほかの方の話を聞くことで、自分では気がつかなかった作品や観方を知ることができよかったです。
「いつもなら一人で観てただ帰るだけなのに話が出来て楽しかった!」と言ってくれる人もいました。
美術館でのアート鑑賞塾も面白いと思いました。

みなさん、私も含め美術史などを専門にしているわけではありませんが、素人ながら様々な感想、疑問、批評が出ました。
そこから自分の言葉でもう一度考えてみることは大切なことだと思います。学芸員さんが聞いたら青くなるような話もありましたが面白かったです。

美術品をただ崇め奉って眺めて知った気になるのは面白くもないですし、インターネットや本でも情報としてはたくさんありますが、やはり実際にものを見て受ける情報は全く別のものです。

19世紀後半のモネやルノワール、ゴッホ、ロートレック、ガレなど、多くの西洋の人々は日本の美術や工芸品に表わされている自然の美しさや移ろい、モチーフや構図に驚き、模倣し、そして自分の人生、作風に大きな影響を受けながら、西洋の地でジャポニスムを自分のものとして昇華し、偉大な作品にしていったのだということに改めて気付かされました。

自分の腕力だけで描き上げたわけではないのですよね。
何を描くか、どう描くかを日本の文化から学んだと言って過言ではないでしょう。

アート鑑賞塾長の笹山さんは「ジャポニスムは19世紀の美術だけでなく、20世紀の現代美
術へと展開していく原動力になった」という他ではあまり聞けない話をしてくれました。
何か新しい動きが生まれ、成熟し、でもまたそのことから新しいものが生まれる道筋が開かれていく。


19年前にオランダのゴッホ美術館を訪ねたことがあります。

今回の展覧会図録の裏表紙に使われている歌川広重の版画(名所江戸百景 亀戸梅屋敷 )を模写したものが展示されていました(今回の展示では広重のオリジナルのそばに小さなサイズの印刷物で展示されています)。

その時はなぜ版画を模写したのかよくわかりませんでした。
油絵具で描いてもなぁ・・・と。

しかしゴッホ美術館の展示に、ゴッホが亡くなる半年ほど前に描いた「グラスに入れた花咲くアーモンドの枝」というB5判ほどの絵があったのですが、そこにもジャポニスムが反映されていたのだと今回気付かされました。
そのころゴッホは精神を病んでいたといわれてますが、どんな思いであの絵を描いたのでしょう?
私には明るい希望の光と優しさに満ちあふれた作品に思えました。

人は一生のあいだに人生を決定させていくようなモノとの出会いが誰にでもあると思いますが、何か心に迷いや苦しさを抱えているような時に出会うような気がします。でも生きる力をもらえます。

特に心惹かれたその小さな絵の前で、私は一人長いこと佇んでいた遠い日のことを思い出しました。

西洋の人々を驚かせた日本の美術や工芸の素晴らしさは今の私たちにも受け継がれているはずです。
遠い昔の西洋の話ではなく、日本の自然観、美意識を今に失いたくはないと、また日本人の自由な発想、手わざは誇りにすべきものだと思いました。

世田谷美術館で9月15日まで。
このあと、京都、名古屋に巡回。






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