中野みどりの紬きもの塾

染織家中野みどりの「紬きもの塾」。その記録を中心に紬織り、着物、工芸、自然を綴ります。

草木の色は無限

2016年06月29日 | 制作工程
 

身近な植物を煎じていくと、赤と黄色の色素が出てきます。
植物によって赤が多いもの、黄色が多いもの、その両方が拮抗しているもの、あるいは同じ植物でも部位によって、また煎じる回数、煎じ方によって赤味、黄色味の違いがでるものもあります。
数種類の植物からたくさんの色相を得るには、それらのことを考慮しながら染め分けていきます。

今月はヤマモモを中心にたくさんの色を染め分けました。
もちろん媒染剤の違いもありますが、部位の違い、煎汁の違い、同じ染液を染重ねていくなどによりかなり違いのある色を得ることになります。

一本のヤマモモの木の小枝や葉や少し太い枝の樹皮だけ、あるいは芯材だけと分けて染めたりもします。
またヤマモモの無媒染の色も私は自然な柔らかな色でよく使います。
染重ねていくと灰味が顔をのぞかせてきて、鉄媒染のグレーとは違う微妙な奥行きのある色合いになります。特に葉っぱに少し黒味も含まれているように思います。黒味も重要な色の要素です。その黒味が濁らず、深味になったところで染重ねをやめないといけません。

また、被染物としての糸や布の性質により、染めあがりの色が違うのは言うまでもありません。
どのような精錬方法かによってももちろん発色は違います。それも視野に入れて染を展開すると更に無限の色が染まるわけです。

そんなわけで、桜の色は何色かと問われても私には答えられないのです。
桜は桜としてその地で生きていくために地中から養分を吸い上げ、必要があって花を咲かせ、種を残すために葉を紅葉させ、落とし、来年へと繋ぎ生き抜いているわけです。

その枝葉の一部を私たちは使わせてもらい、身を包み、身を飾るためにその成分を糸や布に移します。
自然の営みを受け手もよく理解した上で使わせてもらいたいものです。私もまだまだ勉強不足ですが。。

人が“美しい色”と感じるのは何なのか・・・

あるファストファッションメーカーが30色の多色展開の服を広告に上げているのを見たとき、私にはある種の一色にしか見えませんでした。
奥行のない同じ性質のすぐに飽きのくる色の羅列にしか感じられませんでした。

草木で生き生きとした色を染めさせてもらうことを続けていますが、飽きることを知りません。
創意工夫を重ねていくと、毎回新たな発見が有り、心から美しいと思うことが多いです。もちろんうまく染められる時ばかりではありませんが。。。

草木の生木の状態での染色は何分煮るとか何%の染材、媒染剤でできるものではなく、絶えず状況を観察した経験を積みかさね、素材と実践で得られた知恵や経験則、環境や状況がいろいろ絡み合ってその時に生み出されてきます。
私は細かなデータを記録することにあまり興味はなく、どんな色が生まれるだろうかという毎回新たな発見への興味のほうが強いです。
また自分の思い通りにならない色をどう扱えるかがだいじです。思い通りの色などないのだと思います。

あとは織物であればそれらの無数の糸の組み合わせから生まれてくる色、紬糸であれば太細やネップなどの立体感による陰影からも色は生まれてきます。紬織りの糸染の色は平絹系の先染、後染とも違います。

色自体がもつ奥行き感と、糸や布の違い、光線の違いによって複雑に絡み合うのが色です。
色名や色の記号番号にとどまることはないわけです。

また、着物の場合は着る人によって、同じ着物が全く違ったように見えることもあります。
取合せの帯や小物でも違った雰囲気を呈します。

人種などの瞳の色によっても色の識別に違いがあるとのことですから一括りに色については語れないかもしれませんが、外国の方たちにも作品や糸を見てもらうことがありますが、みなさん一様に目を輝かせてその美しさに驚かれます。

トップ画像は右から9枚はすべてヤマモモで染めた帯揚げです。微妙な違いの色で写真には写しきれませんが、モニター画面を少し動かしてご覧頂くのも面白いかと思います。

薄い色でも灰味のあるなしで、着物の取合せの印象も違ってきます。
陰りのある色は秋の陽光の中で取り合わせていただくのも良いかと思います。


6月~9月にかけての絽目の帯揚げは灰味の少ないクリアーな色も染めています。
こちらの画像は左から、白樫、桜若葉、桜若葉、残り3枚は梨です。

美しい色やものは自然の理と深く関わっています。
梅雨空の中でも自然の色は心を和ませ落ち着かせるものですね。

これらの帯揚げも櫻工房内でご覧いただけます。
美しいものについて語り合えればと思います。
ぜひご予約の上、ご都合のよい時にお出かけください。


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