年齢が上がるにつれて、「高血圧」と「糖尿病」を気にし始める人は増えていくもの。
数値をめぐって一喜一憂が繰り広げられるこの2つのの“病気”ですが、
高齢者医療の現場に長年携わってきた和田秀樹氏は
「血圧は無理に下げる必要はなく、
糖尿病の治療にインスリンが必須という考えは間違っている」と言います。
※本稿は和田氏の新著『「健康常識」という大嘘』より、一部抜粋・再構成のうえお届けします。
☆血圧が上がったからと過剰に心配する必要はない
日本で血圧の基準が定められたのは1987年のことで、
当時、厚生労働省は「上(収縮期血圧)が180㎜/Hg以上」を高血圧の基準としていました。
ところが日本高血圧学会は2000年、この基準を「140以上」にまで引き下げました。
さらに2019年になると同会は、高血圧治療ガイドラインの改訂に伴って、
高血圧の診断基準は、140以上のままとしながらも、
それまで正常の血圧とされていた130~139を「高値血圧」(正常よりも高めの血圧)に分類しました。
アメリカで、2017年頃から高血圧の診断基準が、
140以上から130以上に引き下げられたことに追随した形で、
この変更によって数値上の高血圧患者は急増しました。
そしてアメリカでは、年間3000億円程度だった降圧剤の売り上げが、
基準値を引き下げた5年後には1兆6300億円にまでハネ上がったといいます。
つまり、降圧剤などの高血圧治療薬をつくる製薬会社が潤ったわけです。
実は日本で「140以上」を高血圧とする基準値が示された時、
高齢者に関しては、そこまで求められず、
70代は150未満、80代は160未満なら、
正常とみなす緩めの診療目標が設定されていました。
高齢者の場合、年齢に伴い血管の弾力性が失われてきて、血流が悪くなり、
血管に対して、血流の圧がかかりやすくなります。
そのため全身の臓器に、血液をいきわたらせるには、ある程度血圧が高くなければいけません。
若い時よりも、血圧が高いからこそ、脳への血流も十分保たれて、
認知症にかかりにくくなりますし、認知症になっても、
症状の軽い元気な状態が続くと考えられるのです。
それが今では、若年者も高齢者も一律で、140未満を正常とする方針に転換されました。
☆そもそも、100歳以上は高血圧の人が多め
その一方、30年ほど前から100歳以上の人を対象とした研究を続けている
慶應義塾大学医学部のデータでは、100歳以上では、
高血圧とされる人の多いことがわかっています。
世の中には「正常値絶対主義」で、血圧の数値を下げることを目的化している
医者がたくさんいます。
しかし、私が勤務していた当時の浴風会病院のデータだと、
血圧130の人と150の人では、生存曲線に差がありませんでした。
本来ならば厚生労働省が、日本人の血圧の正常値が、
どのくらいかという全国的な大規模調査を行うべきなのです。
今はアメリカが、135と言えば訳もわからずそれに従っていますが、
おそらく日本の高齢者からすると、それが適正値ではないはずです。
ただし、同じ浴風会病院のデータでは、
血圧が180以上になると、明らかに生存率が悪くなっていたので、
私自身は、血圧170以下をキープするようにしています。
かつて降圧剤で血圧を基準値まで下げていた時には、
頭がぼんやりして、仕事やプライベートを快適に過ごすことができなくなりました。
それ以来、降圧剤を適度に服用して、
170をキープしているのですが、まったく不具合は感じていません。
さらに言えば、高血圧を放っておいても、
そのせいで、血管に本格的な障害が生じて、心筋梗塞や脳卒中になるのは、
20年後ぐらいだと考えられます。
現在70歳の人が、好きなように生活を続けて90歳で亡くなるのと、
血圧の正常値ばかりを意識して、20年以上の節制を続けて、
95歳まで生きるのとでは、どちらが幸せなのか。
これから先の20年のうちには、医学の進歩もあるはずです。
これらを考えたうえで、みなさんそれぞれが自分の受ける医療を、
もっと自己決定してもいいのではないかと思います。
☆糖尿病の可能性がある予備軍は約1000万人
糖尿病は、国の定める重要疾患の一つです。
厚生労働省が発表した2019年の国民健康・栄養調査によると、
糖尿病患者数は約1000万人。
糖尿病が強く疑われる、もしくはその可能性を否定できない予備軍も、
約1000万人になります。
糖尿病のリスクは、HbA1c値(ブドウ糖と結びついたヘモグロビンの割合)によって判断され、
特定保健指導では、HbA1c値5.6%を基準値として、
これを超えたものを糖尿病予備軍としています。
糖尿病治療のためには、このHbA1c値を基準値未満に抑えることが大事だというのですが、
アメリカ国立衛生研究所の関連組織による試験では、従来の常識とは異なる結果が出ました。
計1万人の糖尿病患者を対象に、
HbA1cを当時正常値とされていた6%以下に抑える強化療法群と、
7.0~7.9%とする標準療法群の2つに分けて調査したところ、
3年半後の死亡率は、強化療法群のほうが高かったのです。
イギリスでも4万8000人を対象に同様の調査を実施したところ、
やはりHbA1c値が従来の基準値を超える7.5%の時に、
もっとも死亡率が低くなりました。
なおHbA1c値が11.0%まで上昇すると死亡率は、
7.5%の時よりも79%上昇し、
5.4%まで下げた時にも、死亡率は52%上昇しています。
欧米人と日本人で体質は異なるものの、これらの調査の結果からは、
HbA1cが基準値よりもいくらか高い、
つまり「軽い糖尿症とされている人」のほうが、長生きできるのだろうと予測できます。
☆2型糖尿病ならインスリンは原則的に不要
糖尿病には、膵臓からのインスリン分泌が低減することで、発症する「1型」と、
遺伝的な要因に過食や運動不足、肥満などが加わって、発症する「2型」があり、
日本人の糖尿病患者の95%以上が2型です。
1型の場合、血糖値を下げるためのインスリン注射を打たないと
血糖値が急上昇して、その状態が続くと合併症を起こすおそれがあります。
しかし、2型糖尿病の場合は、
インスリンを受け止めるレセプター(受容体)の故障が主な原因で、
インスリン自体は、きちんと分泌されることも多いので、原則的に注射は不要です。
私は以前の検査で血糖値が660mg/dlにまで達していました。
厚生労働省による基準値は、通常の場合、空腹時で70~100mg/dlとされていますから、
明らかに重症の域でした。
医者からは、当然のようにインスリン注射による治療を勧められましたが、
私は2型だったので、これを断りました。
その後はもっぱら、歩くことで血糖値をコントロールしています。
毎日30分ほど歩くようにしたところ、
それまでまったく運動をしていなかったこともあり
血糖値は200~300mg/dl前後を維持しています。
☆数字に固執せず適度にコントロールしよう
厚労省の掲げる正常値よりはずっと高いのですが、
それでもときどき喉が渇く程度で、支障を感じることはありません。
そもそも糖尿病とは「血糖値が高すぎる病気」ではなく、
「血糖値が安定しない病気」です。
血糖値は、低ければいいというものではなく、
50mg/dl以下になると、臓器にダメージを与えるリスクが高まり、
40mg/dlまで下がれば意識を失い、20〜30mg/dlになれば命が危ぶまれます。
慢性的な低血糖状態になると、身体や脳の活性が落ちて終日、
頭がぼうっとしたり身体がふらついたりします。
また血糖値が下がる時間帯には、脳に糖分がいき届かなくなるので、
低血糖によって、認知症のリスクが高まることも考えられます。
こうしたことから血糖値は、正常値にこだわらず、
本人に不具合のない状態で、適度にコントロールするのがベストだと考えます。・・》
注)記事の原文に、あえて改行など多くした。