ウィトラのつぶやき

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アメリカ、特許先願主義を可決

2011-09-12 08:06:12 | 経済

アメリカ議会が特許先願主義を含む特許の包括的改正案を可決した。これまで日本を含めてアメリカ以外のすべての先進国は「先願主義」を採用していたのに対して、アメリカだけは「先発明主義」を採用していた。「先願主義」とは最初に特許申請をした者が発明者とみなされて特許権を受けるという考え方である。これに対して「先発明主義」とは最初にアイデアを思いついた人が発明者とみなされて特許権を得る、という考え方である。一見、「先発明主義」が合理的なようだが、アイデアを思いついたということを証明するために、あるいは審査するために多くのエネルギーが費やされていた。

先願主義ではアイデアを思いついても出願しなかったということはその重要性に気付いていなかったということであり、あとで重要になったからと言っても手遅れであるという考え方である。アメリカは今のスマートフォンの動向を見てもわかるように特許訴訟の多い国であるが、更に特許に対する基本的考え方が違っているために、多くの摩擦を他の国と引き起こしていた。先発明主義では証明できる形で記録を残しておけばいつでも特許化できるために、アイデアがありながら出願しない、そして広く産業界で使われるようになってから出願する、ということが可能で産業界に大きな影響を及ぼす。このような特許を「サブマリン特許」と呼んで特許検索しても出れ来ないので実業界では大きなリスクとなっていた。これが無くなることは好ましいことである。

1980年代、ジャパン・アズ・ナンバーワンなどと言われて日本の産業成長が著しかった頃、アメリカは製造業では日本だけでなく韓国、中国、インドと続くアジア勢には将来的にもかなわないと判断して、知的財産で勝負する方針を固めた。その結果として特許重視政策が続いていて、シリコンバレーなどでベンチャーが次々と生まれ発展していったのも、知的財産を重視する国の政策とあっているので安定したスポンサーが生まれたからだと私は考えている。この辺りが「モノづくり重視」の日本と若干姿勢が違っていたと思っている。

しかし、この政策はパテントトロールとか言って特許を買い集めて裁判を起こして金にする集団が横行したり、最近のスマートフォンの動向に見られるように過度の特許重視につながり、特許自体が産業発展を阻害するような側面が見えてきた。折しもアップルやグーグルといった新しい産業をけん引する会社がアメリカから出てきたために、アメリカ政府は特許政策を全体的に見直したのだと想像している。

IBMは以前からこの傾向を指摘していて、今回の改正を歓迎しているので、今回の改正は単に「先発明主義」を「先願主義」に変えただけでなく特許訴訟が減少していくような知的財産の在り方に関する大きな変革につながっていくものだろうと想像している。