前稿でアンバイ君の珍答弁をこう述べた。
〈不都合な追及を受けると、データを恣意的に援用しつつ決まって「御党の時はこうだったが、今はこう改善した」という話形を露骨に繰り出してくる。アベノミクスの正否については特にそうだ。国政の場でこんな子どもの手柄話を聞こうとは情けない。データを多面的に分析し、エビデンスを探る論議は微塵もなく、これでは一方的な街頭演説レベルである。〉
「子どもの手柄話」がいかに子ども騙しであったか。それを公的資料に基づいて克明に白日の下に晒した好著があった。
集英社インターナショナル新書 『アベノミクスによろしく』 (昨年10月刊)
である。著者は明石順平氏。主に労働事件、消費者被害事件を扱ってきた弁護士である。「よろしく」は『ブラックジャックによろしく』のもじり。同書冒頭でアベノミクスは「現代日本の最大のリスク」と言い切る以上、好意の挨拶などでは毛頭なく決別の辞である。浜 矩子流にいうなら「アホノミクスよ、さようなら」であろうか。藻谷浩介氏は「客観的事実のみを書いた、文句のつけようのない内容」と推薦の言葉を寄せている。なにより非常にわかりやすい。アベノミクス本は多々あれど「本書ほど『わかりやすさ』に重点を置いた本はない」と、明石氏自身が胸を張るほどだ。それは危機意識を共有したいという氏の熱望ゆえである。
氏はアベノミクスをこう譬える。
第1の矢 金融緩和 → 食べ物の量を増やすこと。
第2の矢 財政政策 → 食欲を増やして食べさせること。
第3の矢 規制緩和 → 体質改善して消化・吸収を良くすること。
三本の矢はことごとく的を大きく外れた。その外れようを剔抉したのが本書だ。帯にはエッセンスが6点列挙されている。
◆異次元の金融緩和でもマネーストックの増加ベースは変わらず。
◆実質賃金の大幅下落で、国内消費が「リーマンショック時を超える下落率」を記録。
◆3年間で比較すると実質GDP成長率は民主党時代の約3分の1。
◆新しいGDP算出基準への対応を隠れ蓑にし、GDPを異常にかさ上げ。
◆雇用改善はアベノミクスと無関係。株価も日銀と年金でつり上げているだけ。
◆金融緩和の副作用は、それをやめた時の国債、円、株価の暴落。
これ以外にも、第3の矢の目玉である「働き方改革」に潜む欺瞞にも斬り込んでいる。「民主党時代の約3分の1」とは、「御党の時はこうだった」が聞いて呆れる。「GDPを異常にかさ上げ」に至っては詐欺師の手口だ。なんとかのひとつ覚えである「雇用改善」は、データを見ればアベノミクスとは関係ないことが一目瞭然だ。十八番の「株価好調」も作為的なフレーム・アップ。何から何まで「珍答弁」どころか、子ども騙しの空音答弁であったことが歴然とする。別けても「金融緩和の副作用」は絶望的だ。止(ヤ)めるに止められなくなっている。おクスリなら止める手立てもあろうが、体自体がおクスリでできあがってしまっている。金融緩和の「出口」どころの話ではないのだ。
そこで、起死回生の逆転劇はあるか。『オペレーションZ』がその答えではないか、というのが先月8日の拙稿「初春2冊」で取り上げたイシューである。だから、『アベノミクスによろしく』は『オペレーションZ』と兄弟篇、セットともいえる。
目眩ましの経済成果で支持の安定を図り憲法改悪への突破口を開く。これがアンバイ君の本音だ。国民が身ぐるみ剥がされる前に、彼の悪巧みを曝く。蓋し、必読の一書だ。 □