伽 草 子

<とぎそうし>
団塊の世代が綴る随感録

『限界集落株式会社』 1/2

2015年01月14日 | エッセー

 『限界集落株式会社』が、今月31日から毎週土曜日5回連続でNHK“土曜ドラマ”で放送される。反町隆史や谷原章介らが出演する。
 以下、原作についてネットから転載。
〓『限界集落株式会社』  著/黒野伸一 小学館 2011年11月発刊
 ルールは変わった。新しい公共がここに!
 「限界集落」、「市町村合併」、「食糧危機」、「ワーキングプア」、「格差社会」などなど日本に山積する様々な問題を一掃する、前代未聞! 逆転満塁ホームランの地域活性エンタテインメント!!
起業のためにIT企業を辞めた多岐川優が、人生の休息で訪れた故郷は、限界集落と言われる過疎・高齢化のため社会的な共同生活の維持が困難な土地だった。優は、村の人たちと交流するうちに、集落の農業経営を担うことになる。現代の農業や地方集落が抱える様々な課題、抵抗勢力と格闘し、限界集落を再生しようとするのだが……。
 老人、フリーター、ホステスに犯罪者? かつての負け組たちが立ち上がる!!ベストセラー『万寿子さんの庭』の黒野伸一が、真正面からエンタテインメントに挑んだ最高傑作! 新しい公共がここにある。〓
 作者のプロフィールについては、
〓黒野伸一 クロノシンイチ 1959年、神奈川県生まれ。
 06年、『坂本ミキ、14歳。』(文庫化にあたり『ア・ハッピーファミリー』を改題)で第一回きらら文学賞を受賞し、デビュー。二作目の『万寿子さんの庭』が、幅広い世代の女性の指示を受けロングセラーを続けている。他の著書に『長生き競争!』、『幸せまねき』がある。〓
 と紹介されている。
 今どき珍しいハッピーエンド・ストーリーである。文学的価値が高いとは言い難いが、テーマの社会的緊要度は極めて高い。だから話題を呼んだのであろう。昨年には、つづきが出た。以下、同様に転載。
〓『脱・限界集落株式会社』著/黒野伸一 小学館 2014年11月発刊
TVドラマ化原作、待望の続編!!
 多岐川優が過疎高齢化に悩む故郷を、村ごと株式会社化することで救ってから四年の歳月が経った。止村は、麓にある幕悦町の国道沿いに完成したショッピングモールとも業務提携するほど安定的に発展していっている。
 そんな中、かつて栄えていた駅前商店街は、シャッター通りになって久しかったが、コミュニティ・カフェの開店や、東京からやってきた若者たちで、にわかに活況を呈していた。しかし、モールの成功に気をよくした優のかつての盟友・佐藤の主導で、幕悦町の駅前商店街の開発計画が持ち上がる。コミュニティ・カフェを運営する又従兄弟を手伝っている優の妻・美穂は、商店街の保存に奮闘するが、再開発派の切り崩しにあい、孤立していく。
 開発か、現状維持か? 日本のそこかしこで起こっている問題に切り込む、地域活性エンタテインメント! 信州、東北で大ヒット、17万部突破シリーズ待望の続編です。〓
 「限界集落」とは、過疎により65歳以上の高齢者が住人の5割を超え社会的共同生活が立ち行かなくなっている集落をいう。そこをどう救うか。大括りにいうと、前作では一村丸ごと六次産業化することで限界の淵から蘇った。後作では、前作とは逆の発想で仕舞た屋商店街の活性化を試みる。だから、『続・』ではなく、『脱・』と冠しているのではないか。
 こういう話柄となると、マエストロは藻谷浩介氏を措いて外にない。昨夏、氏がU、I、そしてJターンの専門誌“TURNS”で、「脱東京」をテーマに内田 樹氏と対談をしている。その中に以下のやり取りがある。
◇内田:いま地方へ向かいはじめた人たちは、東京でなにか起きたら死ぬだろうということが、なんとなくわかっているんでしょうね。このまま東京に住んでいたらやばいと、身体的に察知して。
藻谷:そもそもいまの若者は、仕事があるから田舎に行くのではなく、田舎に住みたいから移住先で仕事をつくっていますね。生活費も安いですし、食いっぱぐれはありません。◇
 生き残りのセンサーが大東京のカタストロフィを探知する──いつもながら、内田氏の洞見には膝を打つ。受けて藻谷氏が指摘する仕事と田舎の順逆。これが当今のトレンドである。前記2作品は、この「田舎に住みたい」若者たちがキーパーソンとなる。ただ「限界」への解が「株式会社」でいいのかどうか。たとえば内田氏の次の論攷を徴すれば、にわかには肯んじ難い。
◇「帰りなんいざ」と向かうことのできる「山河」がある。これは日本国民が最後にすがることのできる国民資源です。これからの日本人が国民としての尊厳を保ちながら、生き延びる道は、シンガポール化(引用者註・水、エネルギー、食料など生きるための資源をすべて外国から調達、そのため経済成長を国是とする)ではなく、「山河の再生」という方向だろうと私は思っています。藻谷浩介さんが『里山資本主義』で活写したように、若者たちの地方回帰・自給自足・文化的発信力の回復という動きはいま列島各地で同時多発的に起きています。
 これからの日本は超高齢化のあとの急激な人口減と経済縮小の段階に入ってゆきます。これは回避できません。そのときにどう生きるか。そのときに頼るべきモデルは江戸時代の定常経済にあると思います。「ぬるい社会」をどう制度設計するか、そういう大ぶりの国家ヴィジョンが今こそ必要であると私は思っています。◇(「潮」1月号から)
 世の行く末を俯瞰する叡智は「江戸時代の定常経済」を下絵にビッグマップを構想する。比するに、“古典的手法”(向後、そうなるにちがいない)ともいうべき「株式会社化」でハッピーエンドでは余りに安手ではないか。「日本に山積する様々な問題」が一寒村の成功譚に極小化されているともいえよう。ビッグマップに拡大すれば、たちまちぼやけてしまう画素の粗いディスプレー。稿者の率直な読後感である。
 「脱東京」は「東京一極集中」へのアンチテーゼである。その一極集中はどのようなアポリアを孕むのか。昨年後半からセンセーションを巻き起こしている一書がある。元総務大臣の増田寛也氏編著『地方消滅』(中公新書、14年8月刊)である。昨年5月に自らが発表した「消滅可能性都市896のリスト」を肉付けしたものだ。
「総面積で全国の三・六%を占めるにすぎない東京圏に、全国の四分の一を超える三五〇〇万人弱が住み、上場企業の約三分の二、大学生の四割以上が集中し、一人当たりの住民所得では全国平均の約一・二倍、銀行貸出金残高は半分以上を占める」(同書より)
 その一極に、実は巨大なピットホールがある。
◇大都市圏は「若者流入」で人口増となったが、流入した若年層にとって大都市圏は、結婚し子どもを産み育てる環境としては必ずしも望ましいものではなかった。地方から大都市圏に流入した若年層の出生率は低くとどまっている。これは、全国的な初婚年齢の上昇などに表れているように、結婚しづらい環境があるだけでなく、地方出身者にとっては親が地方にいるため家族の支援が得にくく、またマンションやアパートに住む若者にとっては隣近所のつきあいも希薄であるといったことが理由と考えられている。大都市圏での出生率低下は、日本に限らず多くの国で報告されている共通の現象であるが、とりわけ日本では、大都市への「若者流入」が大規模に進んだため、日本全体の人口減少に拍車をかける結果となったのである。
 東京圏は二〇四〇年までに現在の横浜市の人口に匹敵する「三八八万人の高齢者」が増え、高齢化率三五%の超高齢社会となる。生産年齢人口は六割まで減少するうえ、人口一〇万人当たりの医師数や人口当たりの介護施設定員数も低いため、医療、介護における人材不足は「深刻」を通り越し、「絶望的」な状況になる。その結果、辛うじて地方を支えていた医療・介護分野の人材が地方から東京圏へ大量に流出する可能性が高いのである。◇(同上)
 「大東京のカタストロフィ」が数字的エビデンスによって克明に詳述され、打開の方途が提言されている。蓋し、警世の好著といえよう。ビッグマップの好個の一例でもある。しかし件(クダン)の『株式会社』とは違い、なかなかハッピーエンドとはいかない。現実は常に茨の道だ。
 さて、テレビドラマはどうか。くだくだしい理屈は棚に上げて、「逆転満塁ホームランの地域活性エンタテインメント」を観るも一興か。
 続編については次稿で述べたい。 □