伽 草 子

<とぎそうし>
団塊の世代が綴る随感録

いまどき「ことば」考 <続編>

2007年07月21日 | エッセー
 「問題な日本語」を当てた大修館書店が、昨年暮れ今度は「みんなで国語辞典!――これも、日本語」を出した。半年にして8万部を突破。売れ筋だ。どうやら二匹目のどじょうを掴んだ模様だ。軽佻浮薄、付和雷同、寄らば大樹を身上とするわたくし、さっそく読んでみた。
 「辞書る」とは自ら辞書をつくること、と同書にある。いまどきの言葉を辞書ってみませんかと同書店が呼びかけたところ、11万1472件の応募があった。そのうち約1300語を厳選した。仕掛けがうまい。「明鏡」シリーズの辞引きで有名な同書店。販売戦略も明鏡止水、曇りなく揺るぎない。
 さて、「ことば」考である。同書の中からわたしが『自己中』(この言葉、少し古くなったが、「いまどき『ことば』」ではある)で選んだいくつかを紹介し、かつ寸評を加えたい。ほとんどが若者の間に生まれた言葉だ。「いまどき」が透けて見えれば、お慰みである。
(注)『……』 に続く語釈、例文は同書に依拠した。『→』 以降は寸評。 

◆いえでん【家電】・りくでん【陸電】……家庭に設置してある固定電話。
 → 「家電」はうまい。「陸電」の「陸」はさらにうまい。対するケータイは、人間の海を行く潜水艦の潜望鏡か。イメージの膨らみが豊かだ。
◆いれパン【入れパン】……シャツなど上着をズボンの中に入れること。アキバ系オタクの典型的ファッション。
 → 団塊のおじさんとして、これには物申したい。なぜ、いったい何時から、どうして、だれが、なんのために、そのような無体なことを決めたのか! おじさんたちは御幼少の砌より、シャツはズボンの中に『入れて』いたのです。外に出すのははしたない、無作法な、そして非文化的で無教養で、かつ不良っぽい、野蛮な体たらくとして忌み嫌われていたのです。第一、シャツの構造を見れば判ります。たいがいのシャツには両側にスリットが入っています。ズボンの中に収納しやすくするためです。それをファッションだかなんだか知りませんが、外に出すなどということは、あー、長生きはしたくないものです。それに、「入れパン」がオタクの典型だとか。いまやマイナーどころか、マニアックな存在に貶められています。なんとも、世も末です。最近は若者でもないのに世に阿(オモネ)るおじさんたちを見受けますが、いかがなものでしょうか。長く人間を営んできた矜持を是非お忘れなく、と申し上げたいのです。わたくしは勿論、中に入れます。Tシャツだって入れます。時々、背中の方が外にはみ出すことはありますが、これは別の理由です。なんかよく腕が後ろに回らなくて……。
◆けいりょうか【軽量化】……遊び好きで、ふらふらしている近ごろの軽い若者たちのさま。
 → 重厚長大から軽薄短小へ。産業構造の変化とともに人の世もうつろう。
◆じかじょう【自過剰】……自意識過剰。
◆じかじょう【自過嬢】……自意識過剰な女の子。
 → 「自己中」の発展型か。
◆じべたリアン……地べたに座り込んで雑談をする迷惑な行為。
 → ベジタリアンのもじりであろう。「ベジ」と「じべ」。実にうまい。若者はエラい!
◆しょうわ【昭和】……言動が少し古い人。「あの人、昭和っぽくない?」
 → 昨年から運転免許証に「平成」が加わった。いっそのこと、「江戸っぽく」いきますか? なんせ「江戸しぐさ」ですから。
◆たくのみ【宅飲み】……自宅で飲むこと。
 → 反対は、「外飲み」であろうか。「宅配」はいまやメジャーになった。たしかその昔、「宅浪」というのがあった。予備校に行かず自宅で受験勉強に励む浪人生のことだ。今でも使うのか。
◆とべっ【飛べっ】……会話をしている途中に、相手にいなくなってほしい時に使う言葉。
 → 映画界のタームに「笑う」がある。カメラのサイトから外れることだ。同じような用途に「飛べっ」をもってくる。この感覚が、いかにも若い。
◆にくにくしい【肉々しい】……ふくよか、太い、顔が丸い様子。「あの子の顔って肉々しいね」
 → こう言われて、「憎々しい」という文字が浮かぶようでは「昭和」ですな。
◆ぱ【パ】……中途半端の略。「おまえパだよ!」
◆び【微】……微妙の略。
 → 簡略化は言語の属性である。しかしここまで縮められると、付いていくのがしんどい。微にパになりそう。
◆ママとも【ママ友】……小さな子供を持つ母親同士の友達。
 → これは『使える』のでは。
◆もる【盛る】……濃い化粧をすること。
 → この言語感覚がすばらしい。「厚化粧」と言わず「盛る」。化粧というあえかなる人為をきわめて即物的に言い放つ。あれは「加工」でしかない、と見切っている。脱帽ですな。それにしても、『大盛り』があちこちに……。
◆よさのる【与謝野る】……髪が乱れていること。与謝野晶子の「みだれ髪」から。
 → この企画で審査員特別賞を受賞した作品である。……ああ、懐かしい。
◆いいいみで【いい意味で】……非難の直後に付加することで、非難を賞讃に変える慣用句。「君って馬鹿だね。言い意味で」
 → これはけっこう以前から使って来たような気がする。ひょっとしたら、団塊の落とし子かもしれない。
◆ゆめおち【夢オチ】……小説やマンガで、今までの話がすべて夢だったという結末になること。
 → 浅田次郎 御大のことではない。誤解のないように。これは連載などの途中打ち切りの際に使う常套手段。
◆あひるごはん……朝飯と昼飯をまとめて一食で済ませること。
 → 作り方は普通だが、かなり使えそう。
◆もうそうぞく【妄想族】……すぐに妄想してしまう人。
 → 加齢とともに増える。要注意だ。
◆リバース……飲み過ぎで嘔吐すること。
 → カタカナで言っても、汚いものは汚い。
◆なまあたたかくみまもる【生温かく見守る】……温かく見守るわけでもなく、冷たく突き放すわけでもない。ちょうどいい温度で見守ること。
 → 適温を「生温かく」と表現する感覚。おじさんたちの感覚では、「生」はビール以外決して語感はよくない。「生臭い」「生煮え」「生半可」「生兵法」などなど。この辺り、世代ギャップか。
◆みぎからくち【右から口】……①右耳から入ってすぐに口から出る。相手の言ったことを瞬時に理解し、答える人。②言われたことをすぐに言い返す人。関西人に多い。
 → ムーディ勝山は関西芸人だが、この系譜ではないらしい。ただ『左から』の場合どうか。熟考を要する。

 初夏が間近な今日この頃。寝苦しい夜にお困りの方、または死ぬほど暇な方は、どうかご一読ください。□


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