今日こんなことが

山根一郎の極私的近況・雑感です。職場と実家以外はたいていソロ活です。

正反対の「良い姿勢」

2014年05月07日 | 健康

もともと腰痛持ちなこともあり、姿勢には関心がある。
そして作法をやっていることもあり、自分なりに勉強もしてきた。
いわゆる科学的な言説では、良い姿勢はほぼ一義的に決まるが、
他の分野の人は別の姿勢を推奨している。
最近の書でいくつか比べてみよう。

まずは伊藤和磨(元Jリーガー)の『アゴを引けば身体が変わる』(光文社新書)。
ここで推奨される姿勢はオーソドックスで常識的にも納得しやすい内容。
基本は西洋科学的な視点だが、イラストを見ると力士の所作が意外に姿勢に良いことがわかる。
個人的に参考になったのは、椅子について、鞍のように跨ぐ方向への進化を提言している点。
常識的だが、旧来の常識にとらわれたものでないため、情報的価値はある。

ところが、同じ光文社新書から出ている『背すじは伸ばすな』(山下久明)は、上の様な常識に真っ向から異を唱える。
著者は歯科医で、皮膚科医・夏井誠の『傷はぜったい消毒するな』に触発され、あのようなインパクとある本を目指しているという。
背筋を伸ばさないとは、アゴを引かずにむしろ上げ気味にし、座る時の腰は丸くするように、上の書とは逆の姿勢を推奨する。
この本の面白いところは、歯科医だけあって口腔内のバランスと全身のバランスとを対応させている点にある。
ただ夏井氏の本と違うのは、実証例に乏しく、あくまで理屈上の話で終わっている点。
それに根拠が骨格ばかりで、筋肉への言及が少ないため、真の体のバランスが理解されているのか疑問を感じる。
体のバランスで参考になるのは、『ぜんぶわかる 筋肉・関節の動きとしくみ事典』(川島敏生著 成美堂出版)だな。

腰を丸くするという、背筋を伸ばすのと逆を主張している本は、他にもある。
中村明一という尺八演奏家による『密息で身体が変わる』(新潮社)だ。
密息という尺八用の呼吸法をするためには、腰を後ろへ倒し、しかも腹を張るという。
実際やってみると腰の前弯がおさまり、腹腔内圧が高まることで、腰がいつもの痛みから解放される。
腰椎をきちんと前弯させるというのが、”背筋を伸ばす”基本なのだが、
私も含め、多くの人は骨盤を前傾させて腰椎の前弯を強めることで、かえって腰を痛めている。
なのであえてそれと逆の状態にすることに意味を感じる。
ただ、椅坐で腰椎を丸くすると、仙骨が背もたれにかかることになり、常識的には、椎間板ヘルニアの危険をもたらすはず。
個人経験だけを根拠にした主張は時には常識破りで面白いが、科学的エビデンスに基づかず、
利点だけを強調し、悪影響についての配慮がない点が怖い。

ただ、西洋科学の主張だけが正しいともいえないのは、和式歩行法を知っている身として実感している。
履物は踵を硬く覆うものでないとダメという洋式歩行を前提とした主張では、
江戸時代の日本人が薄い草鞋で長距離を苦もなく歩けた事実を説明できない(歩行法が異なるのだ)。

結局、アゴは引いた方がいいのか、上げた方がいいのか。
腰は前へ出した方がいいのか、うしろへ丸めた方がいいのか。

私はアゴは引き、腰は前弯をゆるめて後ろへ出すようにしている。