オッペケペー節と明治 (文春新書)の感想
自由民権運動へのノスタルジーが込められているという時代背景と政治的なメッセージ性の強さ、「声の文化」と「文字の文化」をつなぐ存在として、蓄音機や鉄道といった新しい事物との関わり、そして反政府的な内容から日清戦争賛美へといった内容や世相の変化など、多角的にオッペケペー節について分析している。オビにもある通り「明治150年」を意識しているようだが、こういう明治の掘り起こしもアリだろう。
読了日:02月02日 著者:永嶺 重敏
トラクターの世界史 - 人類の歴史を変えた「鉄の馬」たちの感想
科学技術史的な内容に終始するのかと思ったら、資料としてトラクターに関連する小説(『怒りのぶどう』など)や小林旭の歌などの歌詞を引用したりと、取っつきやすい構成となっている。20世紀前半にトラクターを導入しようとした世界各地の農民たちが、トラクターを馬などの農作業用家畜の延長としてとらえていたという話が印象的。
読了日:02月04日 著者:藤原 辰史
イスラーム主義――もう一つの近代を構想する (岩波新書)の感想
現在まで続くオスマン帝国崩壊後の中東の「あるべき秩序」の模索を、イスラーム主義を軸に描き出すという内容。イラン革命後の同国の体制をイスラーム共和制と評価したり、イスラーム法ではムスリム同士の争いや自死が禁じられているところを解釈の転換が図られたこと、そして「対テロ戦争」において誰が「テロリスト」なのかという問題が恣意的に曖昧にされているという問題提起などを面白く読んだ。
読了日:02月06日 著者:末近 浩太
古代中国の社: 土地神信仰成立史 (東洋文庫)の感想
シャヴァンヌの古典的研究の翻訳だが、本文やその研究手法自体はやはりその時代のもの。本書の読みどころは、シャヴァンヌの経歴や、本書以後の「社」研究の流れをまとめた訳者菊池章太氏による解説かもしれない。
読了日:02月11日 著者:E. シャヴァンヌ
顔氏家訓 (講談社学術文庫)の感想
抄訳ながら読みやすく読みどころを押さえたものになっていると思う。語釈・訳注はできるだけ訳文中に盛り込むようにしたとのことだが、別に訳注を付けた方が良かったのではないかと思う部分がちらほら。巻末の評伝は最初に読んだ方がよいだろう。
読了日:02月13日 著者:顔之推
渤海国とは何か (歴史文化ライブラリー)の感想
渤海国に絡んで現代の中国と韓国による「歴史の争奪」の問題、「冊封体制論」の批判、近年流行の「東部ユーラシア世界」論から見た渤海国、後身となる東丹国の評価など、議論が広範にわたっていて、かつどれも興味深い。著者自身は渤海国と統一新羅によって東北アジアは南北に分割され、それぞれ朝鮮世界と満洲世界の別々の道を歩むようになり、満洲世界は中国世界の一員となっていくという理解を取るが、それを著者が吐露するように、当時の「思い」や立場とどう併存させていくかは、重い課題となっていくだろう。
読了日:02月15日 著者:古畑 徹
専制国家史論 (ちくま学芸文庫)の感想
メインは中国と日本との国家形成の比較だが、「中国史から世界史へ」という副題通り西欧の古典古代が参照されたり、話がボノボまで遡ったりする。日本が中国の後追い国家として数百年単位で発展に要する期間を圧縮させた点、日本も中国も戦国時代が社会再編の時代となったこと、そして中国共産党の支配について「社会は一見すると高い操作性を示した」としつつも、「しかし、政策を受け入れ、自ら具体化すべき自律的社会の無いがゆえに、政策は安定的に実質化されなかった」とする評価が印象的。
読了日:02月18日 著者:足立 啓二
儒教が支えた明治維新 (犀の教室 Liberal Arts Lab)の感想
「儒教が支えた明治維新」とあるが、そのテーマに即しているのは全3章中第1章のみで、全体は「儒教が支えた日本の歴史」と言った方がふさわしいと思う。内容はこれまでの著者の論著や、著者が深く関わった「にんぷろ」の成果のエッセンス的なもの。あとがきに『儒教に支配された中国人と韓国人の悲劇』を意識した一言があるが、本当に悲劇なのは「儒教に支えられた」日本のことを自覚せずに中国・韓国をあげつらうことなのかもしれない。
読了日:02月19日 著者:小島 毅
日本軍兵士―アジア・太平洋戦争の現実 (中公新書)の感想
日本軍兵士の置かれていた環境、特に心身の疾患や医療状況に着目する。兵士の虫歯や水虫などがクローズアップされていると言えば本書のスタンスが伝わるだろうか。「産児報国」を唱えながらも政府や軍部が戦争未亡人の再婚に否定的だったり、女性の動員を未婚女性に限定したりと、戦争遂行のための合理性より「家」制度に女性を縛り付ける方が優先されたという指摘も興味深い。
読了日:02月25日 著者:吉田 裕
ナポレオン――最後の専制君主,最初の近代政治家 (岩波新書)の感想
回想録など後の時期に成立した資料について、逐一正確性を検討しているのが面白い。個別の議論については、現代フランスの国内のムスリムへの対応の起点をエジプト遠征に求める点、夫婦間の権利の不平等などナポレオン法典が成立時に既に「時代に遅れている」部分を内包していたという点、百日天下の際に仲違いしていた弟ルシアンが再び兄ナポレオンに協力的になった事情などが印象的。
読了日:02月26日 著者:杉本 淑彦
文字講話 甲骨文・金文篇 (平凡社ライブラリー)の感想
文字講話シリーズの総論的な位置づけ。特に金文に関して、講演当時(2005年)頃の著作集別巻本『金文通釈』の刊行を踏まえ、当時の新出金文をふんだんに取り上げたり、それらを資料として加えつつ西周紀年の暦譜再現の話を展開しているのが印象的。
読了日:02月27日 著者:白川 静
自由民権運動へのノスタルジーが込められているという時代背景と政治的なメッセージ性の強さ、「声の文化」と「文字の文化」をつなぐ存在として、蓄音機や鉄道といった新しい事物との関わり、そして反政府的な内容から日清戦争賛美へといった内容や世相の変化など、多角的にオッペケペー節について分析している。オビにもある通り「明治150年」を意識しているようだが、こういう明治の掘り起こしもアリだろう。
読了日:02月02日 著者:永嶺 重敏
トラクターの世界史 - 人類の歴史を変えた「鉄の馬」たちの感想
科学技術史的な内容に終始するのかと思ったら、資料としてトラクターに関連する小説(『怒りのぶどう』など)や小林旭の歌などの歌詞を引用したりと、取っつきやすい構成となっている。20世紀前半にトラクターを導入しようとした世界各地の農民たちが、トラクターを馬などの農作業用家畜の延長としてとらえていたという話が印象的。
読了日:02月04日 著者:藤原 辰史
イスラーム主義――もう一つの近代を構想する (岩波新書)の感想
現在まで続くオスマン帝国崩壊後の中東の「あるべき秩序」の模索を、イスラーム主義を軸に描き出すという内容。イラン革命後の同国の体制をイスラーム共和制と評価したり、イスラーム法ではムスリム同士の争いや自死が禁じられているところを解釈の転換が図られたこと、そして「対テロ戦争」において誰が「テロリスト」なのかという問題が恣意的に曖昧にされているという問題提起などを面白く読んだ。
読了日:02月06日 著者:末近 浩太
古代中国の社: 土地神信仰成立史 (東洋文庫)の感想
シャヴァンヌの古典的研究の翻訳だが、本文やその研究手法自体はやはりその時代のもの。本書の読みどころは、シャヴァンヌの経歴や、本書以後の「社」研究の流れをまとめた訳者菊池章太氏による解説かもしれない。
読了日:02月11日 著者:E. シャヴァンヌ
顔氏家訓 (講談社学術文庫)の感想
抄訳ながら読みやすく読みどころを押さえたものになっていると思う。語釈・訳注はできるだけ訳文中に盛り込むようにしたとのことだが、別に訳注を付けた方が良かったのではないかと思う部分がちらほら。巻末の評伝は最初に読んだ方がよいだろう。
読了日:02月13日 著者:顔之推
渤海国とは何か (歴史文化ライブラリー)の感想
渤海国に絡んで現代の中国と韓国による「歴史の争奪」の問題、「冊封体制論」の批判、近年流行の「東部ユーラシア世界」論から見た渤海国、後身となる東丹国の評価など、議論が広範にわたっていて、かつどれも興味深い。著者自身は渤海国と統一新羅によって東北アジアは南北に分割され、それぞれ朝鮮世界と満洲世界の別々の道を歩むようになり、満洲世界は中国世界の一員となっていくという理解を取るが、それを著者が吐露するように、当時の「思い」や立場とどう併存させていくかは、重い課題となっていくだろう。
読了日:02月15日 著者:古畑 徹
専制国家史論 (ちくま学芸文庫)の感想
メインは中国と日本との国家形成の比較だが、「中国史から世界史へ」という副題通り西欧の古典古代が参照されたり、話がボノボまで遡ったりする。日本が中国の後追い国家として数百年単位で発展に要する期間を圧縮させた点、日本も中国も戦国時代が社会再編の時代となったこと、そして中国共産党の支配について「社会は一見すると高い操作性を示した」としつつも、「しかし、政策を受け入れ、自ら具体化すべき自律的社会の無いがゆえに、政策は安定的に実質化されなかった」とする評価が印象的。
読了日:02月18日 著者:足立 啓二
儒教が支えた明治維新 (犀の教室 Liberal Arts Lab)の感想
「儒教が支えた明治維新」とあるが、そのテーマに即しているのは全3章中第1章のみで、全体は「儒教が支えた日本の歴史」と言った方がふさわしいと思う。内容はこれまでの著者の論著や、著者が深く関わった「にんぷろ」の成果のエッセンス的なもの。あとがきに『儒教に支配された中国人と韓国人の悲劇』を意識した一言があるが、本当に悲劇なのは「儒教に支えられた」日本のことを自覚せずに中国・韓国をあげつらうことなのかもしれない。
読了日:02月19日 著者:小島 毅
日本軍兵士―アジア・太平洋戦争の現実 (中公新書)の感想
日本軍兵士の置かれていた環境、特に心身の疾患や医療状況に着目する。兵士の虫歯や水虫などがクローズアップされていると言えば本書のスタンスが伝わるだろうか。「産児報国」を唱えながらも政府や軍部が戦争未亡人の再婚に否定的だったり、女性の動員を未婚女性に限定したりと、戦争遂行のための合理性より「家」制度に女性を縛り付ける方が優先されたという指摘も興味深い。
読了日:02月25日 著者:吉田 裕
ナポレオン――最後の専制君主,最初の近代政治家 (岩波新書)の感想
回想録など後の時期に成立した資料について、逐一正確性を検討しているのが面白い。個別の議論については、現代フランスの国内のムスリムへの対応の起点をエジプト遠征に求める点、夫婦間の権利の不平等などナポレオン法典が成立時に既に「時代に遅れている」部分を内包していたという点、百日天下の際に仲違いしていた弟ルシアンが再び兄ナポレオンに協力的になった事情などが印象的。
読了日:02月26日 著者:杉本 淑彦
文字講話 甲骨文・金文篇 (平凡社ライブラリー)の感想
文字講話シリーズの総論的な位置づけ。特に金文に関して、講演当時(2005年)頃の著作集別巻本『金文通釈』の刊行を踏まえ、当時の新出金文をふんだんに取り上げたり、それらを資料として加えつつ西周紀年の暦譜再現の話を展開しているのが印象的。
読了日:02月27日 著者:白川 静