博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

2016年11月に読んだ本

2016年12月01日 | 読書メーター
井伊氏サバイバル五〇〇年 (星海社新書)井伊氏サバイバル五〇〇年 (星海社新書)感想古代の在庁官人として出発した井伊氏が、戦国時代の国衆としての立場を経て大名となるまでの過程を描く。来年の大河の主役となる次郎法師こと直虎が、性別や井伊氏の系譜の中での位置づけが曖昧である点、直政が主君家康と秀吉との連絡を任された侍従として名を高めたこと、「徳川四天王」としての直政の武勇は関係が深かった黒田氏を通じて広められた点などを面白く読んだ。読了日:11月2日 著者:大石泰史

国際政治学をつかむ 新版 (テキストブックス[つかむ])国際政治学をつかむ 新版 (テキストブックス[つかむ])感想国際政治史、国際政治学の理論、しくみなどについて過不足なくまとめた入門書。第2章・第3章の理論やしくみについてはもう少し突っ込んだ議論を読みたかったが、それは次の段階の本というかそれぞれの各論に求めるべきか。読了日:11月4日 著者:村田晃嗣,君塚直隆,石川卓,栗栖薫子,秋山信将

中華思想の根源がわかる! 中国古代史入門 (歴史新書)中華思想の根源がわかる! 中国古代史入門 (歴史新書)感想「中国古代史入門」と銘打っているが、「論語」「諸子百家」「儒教」「三国志」など、個々のトピックの解説を中心とする構成。時代は殷から始まって隋唐あたりまでを対象としているが、西周や秦は軽く触れるのみで、かつ高校の教科書レベルの解説になってしまっているのが残念。この内容であれば、思想史に限定してまとめた方が良いものになったのではないか。読了日:11月5日 著者:

通貨の日本史 - 無文銀銭、富本銭から電子マネーまで (中公新書)通貨の日本史 - 無文銀銭、富本銭から電子マネーまで (中公新書)感想戦国期以降の展開がメインだが、古代・中世についても、朝廷が通貨に期待していたのは国家支払手段としての機能であり、民間も含めた一般的な交換手段としての機能は二の次とされていたことなど、重要な指摘がある。私札の発行を承けて藩札が発行されるようになるなど、通貨の歴史は民間のアイデアを政府が追認的に採用するというのが常であったということだが、「おわりに」で触れているように、電子マネーについてもそういう展開になりつつあるようだ。読了日:11月6日 著者:高木久史

古代書体論考古代書体論考感想隷書・篆書といった書体の名称の由来に関する考証が中心。それぞれ前漢末期の今文・古文の対立を背景として命名され、特に隷書は古文学派が今文によるテキストを貶めるために、「隷臣が使うような卑しい書体」という意味を込めて名づけたということだが、もしそうだとすれば、当の今文学派が隷書という名称をどのように受け止めていたのかが気になる。読了日:11月8日 著者:山元宣宏

現代日本外交史 - 冷戦後の模索、首相たちの決断 (中公新書)現代日本外交史 - 冷戦後の模索、首相たちの決断 (中公新書)感想湾岸戦争時の海部政権から、現在の第二次安倍政権までの外交を総ざらいする。関係者の証言を多く引用し、ドキュメンタリー調で読みやすい。個別のトピックで興味深いものは数多いが、中国や韓国との関係、沖縄の基地をめぐる問題などが通時的に追えるようになっているのも魅力。終章もこの四半世紀の日本の外交の良いまとめとなっている。日本だけでなく中国なども、外交がそれぞれの内政の動向と直結している様子がうかがわれ、国際政治と国内政治は切り離しては理解できないと感じた。読了日:11月10日 著者:宮城大蔵

「火附盗賊改」の正体 (集英社新書)「火附盗賊改」の正体 (集英社新書)感想ご多分に漏れず火附盗賊改と言えば鬼平というイメージしかなかったが、鬼平以外にも、鬼平とともに名火盗として語り継がれた中山勘解由、盗賊集団の大ボス日本左衛門と渡り合った徳山五兵衛など、印象的な人物が取り上げられている。鬼平についても、松平定信による冷淡な評価、誤認逮捕に対して補償を行ったことなど、意外な面について触れられている。前身の盗賊改が、盗賊集団の殺戮を目的とした実戦部隊の指揮者であったこと、火附盗賊改が基本的に在任期間が短く、幕閣へのポストであったことなど、制度面の解説も面白い。読了日:11月13日 著者:丹野顯

新・中華街 世界各地で〈華人社会〉は変貌する (講談社選書メチエ)新・中華街 世界各地で〈華人社会〉は変貌する (講談社選書メチエ)感想横浜・神戸など旧来の中華街と池袋などの新中華街との比較、観光地としての整備によって中国人の街としての「リアル」を失ってしまった旧中華街、世界の新旧中華街、故郷に錦を飾る華僑のあり方、日本人に「魔改造」されるまでもなく、自分たちの力で現地化していく華人の食、「莫談国事」から転換しつつある華人の政治参加等々、華僑・華人をめぐる面白い地誌・民族誌に仕上がっている。読了日:11月15日 著者:山下清海

裁判所ってどんなところ?: 司法の仕組みがわかる本 (ちくまプリマー新書)裁判所ってどんなところ?: 司法の仕組みがわかる本 (ちくまプリマー新書)感想裁判所がどんな(手続きで運営されている)ところなのかという話とともに、裁判所がどんな(理念によって動いている)ところなのかを解説した本。中学・高校の公民の補足説明的な内容だけでなく、現状への批判や提言も盛り込まれている。読了日:11月17日 著者:森炎

井伊直虎 女領主・山の民・悪党 (講談社現代新書)井伊直虎 女領主・山の民・悪党 (講談社現代新書)感想第一章「直虎の生涯」と第二章「直虎の正体―「山の民」「女性」「悪党」」の二部構成だが、第一章まででやめておけば良かったのにと思う。第二章は著者の思い入れが上滑りしているというか、なぜ直虎の周辺を『もののけ姫』の世界観と重ね合わせなければいけないのかよくわからない。研究者というより、時代小説家が書いた評伝という印象を受けた。読了日:11月19日 著者:夏目琢史

足利直義:下知、件のごとし (ミネルヴァ日本評伝選)足利直義:下知、件のごとし (ミネルヴァ日本評伝選)感想従来の謹厳実直な政治家としての足利直義の姿とともに、高師直の排除や、観応の擾乱の際に南朝への降伏という禁じ手を創出した点など、目的のために手段を選ばないという一面や、政治に無気力になった晩年なども描き出している。また、兄の尊氏についても、従来は躁鬱症だったのではないかともされていた彼の不可解な行動に一貫性を見出し、合理的な解釈を施しているのも注目される。直義個人の評伝というよりは尊氏・直義兄弟二人の歩みとして面白く読んだ。読了日:11月22日 著者:亀田俊和

贖罪のヨーロッパ - 中世修道院の祈りと書物 (中公新書)贖罪のヨーロッパ - 中世修道院の祈りと書物 (中公新書)感想5世紀からカロリング・ルネサンスの時代にかけての修道院の歴史。フランク国家の貴族門閥の形成と修道院との関係については、門閥単位で修道院を建設し、家門の中から院長候補となる修道士を送り込んだという話は、日本の豪族・貴族の氏寺や門跡を想起させる。また修道院で生産された写本については、巻子本から冊子形式への移行に伴って失われた文献も多いだろうということだが、中国では竹簡から紙への移行に伴って失われた文献がどの程度あるのか。他の地域の文化と比較するための素材として面白く読んだ。読了日:11月24日 著者:佐藤彰一

内藤湖南: 近代人文学の原点 (単行本)内藤湖南: 近代人文学の原点 (単行本)感想中国古代史の研究者による内藤湖南論だが、その方面の議論は第四章の3に見える程度である。第六章を丸々割いて、湖南による代筆文・代作文の問題や無署名文の存在と、それらの『内藤湖南全集』本体への収録及び「著作目録」への著録の基準が明確ではないという問題を論じているのが特徴か。本書では、「得失」で言えば内藤湖南の学の「得」について論じているが、「失」の部分、その学問の限界についも論じて欲しかった気がする。読了日:11月28日 著者:高木智見
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