宗主権の世界史―東西アジアの近代と翻訳概念―の感想
宗主権・主権・外交・属国・独立…… 近代のアジア諸国はこれらの概念をどう飲み込んでいったのか。「東方問題」などオスマン帝国での事例が日本を含む東アジア諸地域での先例となっているということで、オスマン帝国の話によって東アジアの話をサンドするという構成。門外漢にとってはオスマン帝国がムスリムの頂点に立つとともに、モンゴルの大ハーン、東ローマ帝国の後継者を体現する存在であり、これらが19世紀以後剥ぎ取られていったという視点が目新しい。
読了日:1月5日 著者:
禹王と日本人―「治水神」がつなぐ東アジア (NHKブックス No.1226)の感想
日本と中国、そして分量としては少ないが朝鮮半島における禹王伝説の受容史。禹が活躍したとされる「夏」代の話になると途端に話が怪しくなるのは仕方ないのか……
読了日:1月7日 著者:王敏
馬賊 日中戦争史の側面 (中公新書)の感想
今回Kindle版で読み返してみて、日露戦争のあたりから注目され始めた馬賊が日中戦争の頃には既に日本側にとって用済みとなりつつあり、歴史的な役割を終えつつあったということで、その活躍期間は案外短いと感じた。本書で何度か出てくる「御用馬賊」という言い方には笑ってしまったが。
読了日:1月9日 著者:渡辺龍策
族群―現代台湾のエスニック・イマジネーション (台湾学術文化研究叢書)の感想
閩南人・外省人・客家人・原住民という台湾の四大族群がどのように形成されたのか……ではなく、四大族群という認識がどのように形成されたのかという話。こういうのを読むと、日本人である我々が台湾の植民地統治の功罪とか大陸の経済進出への反発といった話題に安易に踏み込むのが躊躇されるようになる。同時に原著者の政治的立場も少々気に掛かるが……
読了日:1月11日 著者:王甫昌
佯狂―古代中国人の処世術 (汲古選書 62)の感想
楚狂接輿などを模範に狂人じみた振る舞いによって政治からの韜晦をはかった六朝人の処世と、唐詩などにおける接輿の受容史について。大室幹雄的なアプローチを期待したら当てが外れた。正直これを読むなら井波律子の本でも読んでおいた方がいいです。
読了日:1月14日 著者:矢嶋美都子
日韓歴史認識問題とは何か (叢書・知を究める)の感想
日韓歴史認識問題の歩みを当時の日韓の政治的・国際的背景の中で位置づける。従来政治家や専門家の間でしか知られていなかった両国の歴史認識の溝が、ネットの普及によって一般の人々にも知られるようになったこと、両国の相互理解が進んだことが、近年になって日韓関係が急速に悪化した原因のひとつとしているが、そうであるとすれば嫌韓感情の広まりも将来の日韓友好達成のために必要な過程ということになるのかもしれない。過去のように歴史認識問題が両国の政治家間のみのやりとりでなあなあで済まされるよりは健全なのではないか。
読了日:1月18日 著者:木村幹
華族誕生 名誉と体面の明治 (講談社学術文庫)の感想
華族に関する総論ではなく、叙爵の基準や陞爵をめぐるエピソードに的を絞った論著。総論を期待する向きは中公新書の『華族』を読んだ方がいいだろう。諸侯の叙爵は明治の時点での現高を基準としており、戊辰戦争時に賊軍となった藩主の爵位が低くなったのは、賊軍だったからではなく、賊軍となったことで領土が削減され(=現高が減り)、その結果叙爵の基準に照らし合わせて低い爵位となっただけで特に他意は無いとのことであるが、そういう基準を採用したこと自体に他意を感じるのは私だけだろうか?
読了日:1月20日 著者:浅見雅男
ヒゲのウヰスキー誕生す(新潮文庫)の感想
マッサンこと竹鶴政孝氏のスコットランド留学、リタとの出会いからニッカの創業、経営が軌道に乗るまでをコンパクトにまとめる。朝ドラではスルーされている当時の時代背景(ウイスキー国産化計画と大戦景気・戦後恐慌との関係など)もちゃんと触れられているので、副読本としてはお薦め。ドラマでは戦時中の統制経済がニッカの経営にプラスに作用したことなどにちゃんと触れるのだろうか…… そしてニッカ創業後もマッサンこだわりの製品は「爆死」を続け、経営が安定してくるのは戦後に入ってからなんですね。
読了日:1月24日 著者:川又一英
地域論 (岩波講座 日本歴史 第20巻(テーマ巻1))の感想
北海道・対馬などの辺境や対外交易に関する論考を収める。「環日本海交通圏」では満州国への海上交通を念頭に「日本海を我らの湖水に」というスローガンが謳われ、それが戦後日本海沿岸の自治体とロシア極東地域との友好につながったことなどに触れる。「近代日本における国籍と戸籍」では最後まで国籍法案が制定できなかったこと、中国人が不法営業や脱税の摘発を受けた際に日本の保護を得るため、中国国籍を保持したまま植民地台湾の戸籍を取る動きがあったことなどに触れる。月報は羽田正氏のグローバルヒストリーに関するものなど。
読了日:1月25日 著者:
殷 - 中国史最古の王朝 (中公新書)の感想
甲骨文を主要な史料として殷代の王権のあり方について論じる。内容としては氏の学術書『殷代史研究』を一般書としてトレースしたものになっている。氏のこれまでの一般書の中では最もよくまとまっているが、近年の中国人研究者の成果をあまり重視していない点が気になる。過去には氏の指摘するように伝世文献の記述を重視しすぎているといった問題があったが、近年若手研究者の論著を中心にその問題は改善されつつあり、見るべき研究が多くなっているので……
読了日:1月26日 著者:落合淳思
中国古代の貨幣: お金をめぐる人びとと暮らし (歴史文化ライブラリー)の感想
タイトルに「貨幣」とあるが、銅銭だけでなく黄金や布帛など貨幣の役割を果たしたものも念頭に置き、また市場など貨幣が使われた場についても論じるといった具合に、中国古代生活史といった趣きとなっている。盛り込まれているトピックも幅広い。個人的には今年最初のお薦め本。
読了日:1月27日 著者:柿沼陽平
ビスマルク - ドイツ帝国を築いた政治外交術 (中公新書)の感想
ビスマルクが政治家として伝統と革新の両面性を具えていたこと、その都度場当たり的な対応で危機を乗り切ってきた「急場しのぎ」の天才であったことを強調する。本書第8章ではあまり知られていない帝国宰相辞任後のビスマルクについて触れているが、良くも悪くも「老害」としか言いようがない存在だなと思った。本書のまえがきに、ビスマルクの異名としてお馴染みの「鉄血宰相」「誠実な仲買人」などとともに「魔法使いの弟子」を挙げているのには笑ってしまったが。
読了日:1月30日 著者:飯田洋介
中国嫁日記(四)の感想
今回の特別編は男性不妊についてということで、いつもより(ついでに本編の反日デモの話より)雰囲気が重いです。
読了日:1月31日 著者:井上純一
宗主権・主権・外交・属国・独立…… 近代のアジア諸国はこれらの概念をどう飲み込んでいったのか。「東方問題」などオスマン帝国での事例が日本を含む東アジア諸地域での先例となっているということで、オスマン帝国の話によって東アジアの話をサンドするという構成。門外漢にとってはオスマン帝国がムスリムの頂点に立つとともに、モンゴルの大ハーン、東ローマ帝国の後継者を体現する存在であり、これらが19世紀以後剥ぎ取られていったという視点が目新しい。
読了日:1月5日 著者:
禹王と日本人―「治水神」がつなぐ東アジア (NHKブックス No.1226)の感想
日本と中国、そして分量としては少ないが朝鮮半島における禹王伝説の受容史。禹が活躍したとされる「夏」代の話になると途端に話が怪しくなるのは仕方ないのか……
読了日:1月7日 著者:王敏
馬賊 日中戦争史の側面 (中公新書)の感想
今回Kindle版で読み返してみて、日露戦争のあたりから注目され始めた馬賊が日中戦争の頃には既に日本側にとって用済みとなりつつあり、歴史的な役割を終えつつあったということで、その活躍期間は案外短いと感じた。本書で何度か出てくる「御用馬賊」という言い方には笑ってしまったが。
読了日:1月9日 著者:渡辺龍策
族群―現代台湾のエスニック・イマジネーション (台湾学術文化研究叢書)の感想
閩南人・外省人・客家人・原住民という台湾の四大族群がどのように形成されたのか……ではなく、四大族群という認識がどのように形成されたのかという話。こういうのを読むと、日本人である我々が台湾の植民地統治の功罪とか大陸の経済進出への反発といった話題に安易に踏み込むのが躊躇されるようになる。同時に原著者の政治的立場も少々気に掛かるが……
読了日:1月11日 著者:王甫昌
佯狂―古代中国人の処世術 (汲古選書 62)の感想
楚狂接輿などを模範に狂人じみた振る舞いによって政治からの韜晦をはかった六朝人の処世と、唐詩などにおける接輿の受容史について。大室幹雄的なアプローチを期待したら当てが外れた。正直これを読むなら井波律子の本でも読んでおいた方がいいです。
読了日:1月14日 著者:矢嶋美都子
日韓歴史認識問題とは何か (叢書・知を究める)の感想
日韓歴史認識問題の歩みを当時の日韓の政治的・国際的背景の中で位置づける。従来政治家や専門家の間でしか知られていなかった両国の歴史認識の溝が、ネットの普及によって一般の人々にも知られるようになったこと、両国の相互理解が進んだことが、近年になって日韓関係が急速に悪化した原因のひとつとしているが、そうであるとすれば嫌韓感情の広まりも将来の日韓友好達成のために必要な過程ということになるのかもしれない。過去のように歴史認識問題が両国の政治家間のみのやりとりでなあなあで済まされるよりは健全なのではないか。
読了日:1月18日 著者:木村幹
華族誕生 名誉と体面の明治 (講談社学術文庫)の感想
華族に関する総論ではなく、叙爵の基準や陞爵をめぐるエピソードに的を絞った論著。総論を期待する向きは中公新書の『華族』を読んだ方がいいだろう。諸侯の叙爵は明治の時点での現高を基準としており、戊辰戦争時に賊軍となった藩主の爵位が低くなったのは、賊軍だったからではなく、賊軍となったことで領土が削減され(=現高が減り)、その結果叙爵の基準に照らし合わせて低い爵位となっただけで特に他意は無いとのことであるが、そういう基準を採用したこと自体に他意を感じるのは私だけだろうか?
読了日:1月20日 著者:浅見雅男
ヒゲのウヰスキー誕生す(新潮文庫)の感想
マッサンこと竹鶴政孝氏のスコットランド留学、リタとの出会いからニッカの創業、経営が軌道に乗るまでをコンパクトにまとめる。朝ドラではスルーされている当時の時代背景(ウイスキー国産化計画と大戦景気・戦後恐慌との関係など)もちゃんと触れられているので、副読本としてはお薦め。ドラマでは戦時中の統制経済がニッカの経営にプラスに作用したことなどにちゃんと触れるのだろうか…… そしてニッカ創業後もマッサンこだわりの製品は「爆死」を続け、経営が安定してくるのは戦後に入ってからなんですね。
読了日:1月24日 著者:川又一英
地域論 (岩波講座 日本歴史 第20巻(テーマ巻1))の感想
北海道・対馬などの辺境や対外交易に関する論考を収める。「環日本海交通圏」では満州国への海上交通を念頭に「日本海を我らの湖水に」というスローガンが謳われ、それが戦後日本海沿岸の自治体とロシア極東地域との友好につながったことなどに触れる。「近代日本における国籍と戸籍」では最後まで国籍法案が制定できなかったこと、中国人が不法営業や脱税の摘発を受けた際に日本の保護を得るため、中国国籍を保持したまま植民地台湾の戸籍を取る動きがあったことなどに触れる。月報は羽田正氏のグローバルヒストリーに関するものなど。
読了日:1月25日 著者:
殷 - 中国史最古の王朝 (中公新書)の感想
甲骨文を主要な史料として殷代の王権のあり方について論じる。内容としては氏の学術書『殷代史研究』を一般書としてトレースしたものになっている。氏のこれまでの一般書の中では最もよくまとまっているが、近年の中国人研究者の成果をあまり重視していない点が気になる。過去には氏の指摘するように伝世文献の記述を重視しすぎているといった問題があったが、近年若手研究者の論著を中心にその問題は改善されつつあり、見るべき研究が多くなっているので……
読了日:1月26日 著者:落合淳思
中国古代の貨幣: お金をめぐる人びとと暮らし (歴史文化ライブラリー)の感想
タイトルに「貨幣」とあるが、銅銭だけでなく黄金や布帛など貨幣の役割を果たしたものも念頭に置き、また市場など貨幣が使われた場についても論じるといった具合に、中国古代生活史といった趣きとなっている。盛り込まれているトピックも幅広い。個人的には今年最初のお薦め本。
読了日:1月27日 著者:柿沼陽平
ビスマルク - ドイツ帝国を築いた政治外交術 (中公新書)の感想
ビスマルクが政治家として伝統と革新の両面性を具えていたこと、その都度場当たり的な対応で危機を乗り切ってきた「急場しのぎ」の天才であったことを強調する。本書第8章ではあまり知られていない帝国宰相辞任後のビスマルクについて触れているが、良くも悪くも「老害」としか言いようがない存在だなと思った。本書のまえがきに、ビスマルクの異名としてお馴染みの「鉄血宰相」「誠実な仲買人」などとともに「魔法使いの弟子」を挙げているのには笑ってしまったが。
読了日:1月30日 著者:飯田洋介
中国嫁日記(四)の感想
今回の特別編は男性不妊についてということで、いつもより(ついでに本編の反日デモの話より)雰囲気が重いです。
読了日:1月31日 著者:井上純一